島本理生『夏の裁断(文春文庫)』読了

女性作家の前にあらわれた悪魔のような男。
男に翻弄され、やがて破綻を迎えた彼女は、
静養のために訪れた鎌倉で本を裁断していく。
内容(出版社内容紹介より)

二つの作品。

本書は先日の直木賞受賞の話題も記憶に新しい著者による一冊。
第153回芥川龍之介賞候補となった『夏の裁断』に
書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナルとなっています。
佳作。

内容はバッサリ略で一言、とても良かったです。
後述しますが途中で雰囲気がガラリと変るし、
テーマでさえ180度反転する。
読書中は何度も翻弄されてしまいました。
でも最初の章『夏の裁断』を2度読んだ(理由は後述します)報酬は
充分に受け取ることが出来ました。

本書は一つの連続した物語であり作品です。
けれど明らかに二つの、全く別の作品が混在しています。

死と再生
拒絶と承認
そして
性と生

それは単独で単行本となった『夏の裁断』と
他の三つの書き下ろしの明確な世界観の違い、
そのままであったと思います。
また、僕にはそれが著者の意図によるモノなのか、
単に出版時の事情・偶然によるものかは判りません。
けれど決して交わらない、でも確かに繋がっている女性の心模様、
さらには人生の暗中模索みたいなモノを
良く顕していた様に感じました。

また本作は主人公・千紘の男たちに翻弄される様子から、
ある種のマゾヒズムを感じる方が多いかも。
けれど僕は逆に著者の恋愛に対する冷徹、
ある種のサディズムを感じたんですよね。
相思相愛にならない原因の責任転嫁として
「相手の気まぐれ」を利用するとあったり、
さらには恋に傷付き空いてしまった場所を埋めるには

質より量(本文より)

とした場面なんかに顕著でした。
本作が著者のパーソナルを投影しているとは全く思いませんが、
しかし著者の恋愛に対する嫌悪感みたいなモノを僕は感じました。

長くなったのでココからは本当に蛇足と言う事で……。
実は僕は従前に単行本の『夏の裁断』を読了していました。
しかし、感想文(ここにあげている駄文です)をアップする前に
文庫本の出版と、書き下ろし三篇が加わるコトを知りました。
なので改めて文庫版を入手し、一部は再読(タイトル話が再読です)
になったのですが、この判断は我ながら正解でした。
なぜなら文庫版は単行本とは全く別の、
正確に言えば単行本を内包するハッキリとした新作だったからです。
また文庫版は単行本の評価を一変(反転)させる可能性が
非常に高いと感じました。なので既に単行本を読まれ and
たとえその評価が芳しくなかったとしても、
文庫版を改めて試す価値は十二分にあると思います。
ファンの方は是非是非お見逃し無く。

因みに僕は単行本『夏の裁断』(作中の最初の一編)だけでも
佳作としていました。
むしろ『秋の通り雨』と『冬の沈黙』まで読んで
書き下ろしは余計だったとガッカリしたんですよね。
けれど最後の『春の結論』までを読んで評価は反転(二転三転です)。
文庫版を通した一つの作品としても佳作としました。
当然、同じ佳作でも単行本と文庫版では意味合いは全く違います。
例えるなら前者は芥川賞的で、後者は直木賞的になるでしょう。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

森博嗣『天空の矢はどこへ?』読了

カイロ発ホノルル行き。エア・アフリカンの旅客機が、
乗員乗客200名を乗せたまま消息を絶った。
乗客には、日本唯一のウォーカロン・メーカ、イシカワの社長ほか
関係者が多数含まれていた。時を同じくして、九州のアソにある
イシカワの開発施設が、武力集団に占拠された。
膠着した事態を打開するため、情報局はウグイ、ハギリらを派遣する。
知性が追懐する忘却と回帰の物語。
内容(「BOOK」データベースより)

既にエピローグ。

本書は「Wシリーズ」の第9弾(その他はコチラ→1,2,3,4,5,6,7,8,9
「Wシリーズ」はおろか F から続く「森博嗣シリーズ」も
いよいよクライマックスとなりました。
と言うか既にエピローグ?

ウォーカロン・メーカを襲う二つの事件
ポスト・インストールされないウォーカロンと、
ポスト・インストールが除去されたウォーカロン
そして
人間の、人工知能の感情とは

今回はシリーズを通しての大きな動き・変化はなく、
あくまでエピソードの一つと言った趣です。
著者お約束の最終盤及びエピローグで重要な秘密?が
明らかに(正確に言えば “推測”)されますが、
読者にとっては “既知” の確認にすぎない。
斯様に、Wシリーズ中で最も驚きの少ない一冊かもしれません。
しかし、落ち着いた物語の中にも(アクションシーンはあります^^)

美しいものを見たな(本文より)

と言った静かな興奮もありました。
言うまでもないけれど本書も「Wシリーズ」の期待を
1ミリたりとも裏切らないし、ファンの方には絶対のお勧めです。

また次巻でシリーズ最後とアナウンスがされています。
さらには本書の静けさもあって、
シリーズは既にエピローグに入っていると感じました。
きっと最終巻も多くの謎は謎のまま残り、もしくは断言されず、
ハギリの言葉を借りれば

わからないことが多くある、
ということが普通よりもわかってしまう(本文より)

と言った感じで幕を閉じると予想します。
でも僕はむしろそれが楽しみなんですよね。
今作から始まったエピローグの余韻みたいなモノを、
次の最終巻でも味わえるのですから
(それはきっと今作以上でしょう)。

蛇足で僕が一番印象に残ったシーンはP110-14行目(ネタバレ回避)。
でもそれは流されたからではありません。
むしろ抑制したその知性にこそ、崇高なナニかを見ました。
加えて最終巻のタイトルが『人間のように泣いたのか?』であり、
僕は泣いて欲しいと思ったんですよね。それは

人間のようにではなく、
人間のためにでもありません。

彼等のやりかたで、彼等自身のために泣いて欲しい。
願わくば哀しみではなく、喜びの涙で。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

鈴木るりか『さよなら、田中さん』読了

田中花実は小学6年生。ビンボーな母子家庭だけれど、
底抜けに明るくたくましいお母さんと、
毎日大笑い、大食らいで生きている。
この母娘を中心とした日常の事件を時に可笑しく、
時にはホロッと泣かせる筆致で鮮やかに描ききる。
「12歳の文学賞」史上初3年連続大賞受賞。
5編からなる連作短編集。圧倒的小説デビュー作。
内容(「BOOK」データベースより)

飛躍を期待。

本書は小学館が主催する「12歳の文学賞」史上初3年連続大賞を受賞し、
弱冠14歳でデビューが話題となった著者の一冊。
ことさら年齢を取り上げたくはありませんが、
14歳でこの文章(テクニック)は舌を巻くしかありません。

母子家庭の素直な娘
大食らいで豪快な母親

内容はバッサリ略で一言。良かったと思います。
正直、単行本化はご祝儀か大人の事情だと思うけれど、
テクニックは年齢を軽く超えているコトに間違いありません。
ただ、ネットでは若き「感受性」をあげる方が多いけれど、
残念ながら僕はその点に大きま疑問を感じてしまいました。
例えば

西加奈子さんの『漁港の肉子ちゃん

その類似性は顕著だし(それが悪いとは言いません)
そもそも誰も指摘していないのはちょっと不思議な気もするけれど、
あからさまにサイバラの(多くの)作品に似すぎてはいないかな?
斯様に僕は、本作から著者の年齢以外に
オリジナリティを見つけることが出来ませんでした。

これは戯言になってしまいますが、
クリエイタを目指すならテクニックよりもオリジナリティ。
前途ある若者へ、老人(僕)から控えめにアドバイスを贈ります。

鈴木さん、アナタなら出来ます。

発想を、人生を、共に大きく飛躍されんことを祈って。
これからも頑張ってください。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

内澤旬子『飼い喰い 三匹の豚とわたし』読了

世界各地の屠畜現場を取材してきたイラストルポライターが抱いた、
どうしても「肉になる前」が知りたいという欲望。
見切り発車で廃屋を借り豚小屋建設、受精から立ち会った中ヨーク、
三元豚、デュロック三種の豚を育て、屠畜し、
ついに食べる会を開くに至る。一年に及ぶ「軒先豚飼い」を通じて
現代の大規模養豚、畜産の本質に迫る、前人未踏の体験ルポ。
内容(「BOOK」データベースより)

帰って来てくれる。

本書は自身の手で三匹の子豚を育て、
そして屠畜から食べるまでを描いたノンフィクション。
命(いのち)を食べると言う、
ある意味で非常に難しい題材ではありますが、肩肘張ることなく、
しかし文字通り体当たりで挑戦した極上のレポートとなりました。
秀作。

内容はバッサリ略で一言。最っ高!に面白かったです。
お肉が好きな人(含む僕)は勿論、
(豚や家畜ではなく)愛玩動物を飼われている方や、
子供達にもお勧めしたい一冊です。

オレ様でジャイアンな三元豚の夢くん。
いじめられっ子でのび太くんな中ヨークの伸くん。
水シャワーが好きな紅一点、しずかちゃんなデュロックの秀ちゃん。

著者の畜産及び家畜に対する姿勢は一貫しています。
大雑把に言えば

家畜は家畜、結局は食べ物。

しかし彼女は飼育する豚にあえて名前をつけ、
食べ物とペットの境界線を曖昧にしてしまいました。
それは

肉にしてしまうのに、余計な愛着を移すのはかわいそう(本文より)

と協力していただいた畜産関係者から大反対されるのですが、
それは自身の心の変化を観るのに必要な措置だったのです。
実際、著者は調理された彼等の肉片を口にした瞬間、
とある天啓を得ることが出来ました。
その詳細は是非ご自身の目でお確かめくだくとして……。

おためごかしではありません。
命(いのち)を食べるって、結局そう言う事なんだと思いました。

また命(いのち)を食べるコトは人命の根源に関わる一方で、
考え方や延いては宗教観にまで話が広がってしまいます。
なので個人的な意見は控えますが、僕の考えは著者と殆ど同じ。

家畜は食べるためにあり、そして僕は食べる。

これ以上でもこれ以下でもありません。

またお堅いこと抜きに、情報の多くが為になったし
体験記としても非常に面白かったです。
例えば前者なら豚の人工授精で使われる精液は
別々の三頭のそれを混ぜて作るとか
(精子の競争力が刺激されて、単体よりも断然元気になるそうです)
後者ならネパールやタイに倣って人糞
(勿論、著者自身のオリジナル?です)を食べさせようと試みたり。
その他もイチイチ面白く、可笑しく、考えさせられ、
質と量を含め全方向で突出していました。
因みに僕は読了後、不謹慎かもしれないけれど
しょうが焼きが食べたくなりました^^

最後に。
作中、ご自身の乳癌についてチラホラ触れられており、
大変驚いてしまいました
(心配でちょっとググって調べたのですが、ここでは控えます)。
でもこれからも美味しいお肉をモリモリ食べて、
等身大のレポートがじゃんじゃん届けられるますように。
一ファンとして心から願っております。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

矢部太郎『大家さんと僕』読了

1階には大家のおばあさん、2階にはトホホな芸人の僕。
挨拶は「ごきげんよう」、好きなタイプはマッカーサー元帥(渋い!)、
牛丼もハンバーガーも食べたことがなく、僕を俳優と勘違いしている……。
一緒に旅行するほど仲良くなった大家さんとの“二人暮らし”が
ずっと続けばいい、そう思っていた――。泣き笑い、奇跡の実話漫画。
内容(出版社内容紹介より抜粋)

親しき仲にも礼儀あり。

本書はお笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんによるコミックエッセイ。
歳の離れた二人のほのぼのとした交流が描かれており、
暑い毎日に一服の清涼剤となりました。

内容はバッサリ略で一言、とても良かったです。
矢部さんの柔らかくてヘタウマな画も、
芸人としての駄目さ加減も面白いのだけれど、
なんと言っても大家さんがカワイイんですよね。
目上の女性に対して失礼だけれど、庇護欲をそそられました。

普段の僕なら、
お買い物はなんでも(家電もたらこも!)伊勢丹で買うとか、
子供の頃はお手伝いさんがいて、
今も新宿一等地の庭付き一戸建てに住んでいるとか

なーんだ、ただのブルジョアか(冷たい目)

と、斜に構えるところ。
でも、そんなのでは彼女の芯みたいなところは顕せないんですよね。
ネタバレになるので控えるけれど、
彼女は単に無菌室で育てられたお嬢様ではなく、
ごく普通に、いまも哀しみと共にある一人の女性であるコト。
また戦争が、時代が……とか関係なく、
ただただ彼女が歩んできた道のりにも敬意を覚えました。

敬意があるからこその庇護欲です。

決してカワイイだけではありません。
またこれは蛇足になりますが、
作中、矢部さんの家賃の支払いに遅れがあったコトが記されています。
実は僕も学生時代のアパートの大家さんがとても良い人で、
それに甘えて何度も家賃を滞納してしまいました。
それでも僕達の関係も、
家賃を払いに行けば大家さんは必ず何かを持たせてくれたり、
反対に僕もゴミ置き場の修復を手伝ったり、
自転車のパンクを直してあげたりと、
(本書と同じく)割りと良い関係だったと思います。
大家さんに捕まると話が長くて困るのも同じだけれど(笑)
けれど僕も年齢を重ね、あの頃の大家さんの寛容(あるいは忍耐)を
想像出来るようになったのでしょうか?

やっぱり家賃滞納はマズかったよな。
相手の好意に甘えていては本当の信頼関係は築けないよな。

そう今では考える様になりました。
これは矢部さんに対してではなく、僕自身に対して

「親しき仲にも礼儀あり」

それを忘れないようにしなければ。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

今村昌弘『屍人荘の殺人』読了

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、
曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、
同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、
想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け―。
部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。
しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!
内容(「BOOK」データベースより抜粋)

後半加速。

本書は第27回鮎川哲也賞受賞作であり、
さらには2018年『このミス』の第1位を獲得した作品。
温故知新に斬新なアイデア、そしてキャラの立った登場人物と、
割りと間口の広い、サービス精神旺盛な一冊です。

内容はバッサリ略で一言。かなーり面白かったです。
正直、前半は退屈だったし、ラノベ風のノリに苦笑する。
物語が劇的に動く(はじまる)とある出来事(ネタバレ回避)には、
苦笑を通り越して本書をブン投げようかと思いました(笑)
けれど一度受け入れて?しまえば、それは絶妙な舞台設定となり、
斬新なクローズドサークル(及び二重の密室)を演出したんですよね。
そのアイデアに(途中からではありますが)感心してしまいました。
またキャラの立ちしすぎの感は拭えないものの、
探偵役の推理は一貫して論理的だし、
確率や超常現象と言った曖昧なモノにも逃げていない。
伏線も非常にフェアだし、近年では珍しいほどの正統派です。
頭の固い本格ファン(含む僕)には突飛な設定と、
軽い文体にホンの少しだけ寛容になっていただき、
中盤まで(我慢して?)読み進めることをお勧めします。
後半からラストに掛けての面白さは素晴らしい加速をみせますよ?
個人的な感覚では重力加速度9.8m/sより5%は上です(笑)

因みにツッコミどころも多いです。特にあんな大事件が
事件後にサラッと流されちゃうのは如何なものでしょう(笑)
けれどそんな細かいコト(←キッパリ)は誰も気にしないですよね?
本格ファンを自称するなら、笑って流すのが嗜みです^^b

最後になりますが、本書はシリーズ化される気配が濃厚だし、
前日譚(外伝?)に備えた伏線もあります。
いやぁ~、本書はデビュー作にも関わらず、
大人の事情(ありていに言えばビジネス的)にもかなり老獪。
著者は現実世界でも伏線を張るのが上手いですな(笑)

おまけ:
Hungry Heart
BGM: Bruce Springsteen / Hungry Heart
  全ては共感できないけれど、立浪に似合っている曲だと思いました。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

木下昌輝『絵金、闇を塗る』読了

江戸末期に土佐に生まれ、幼少より絵の才能を発揮し、
狩野派の技法を信じがたい短期間で習得した天才絵師―通称“絵金”。
免許皆伝を得て帰郷し、土佐藩家老のお抱え絵師となるも、
とある事件により追放される…。
市川團十郎や武市半平太、前村洞和など、
その絵に人生を左右された男たちの生きざまから、
絵金の恐るべき芸術の魔力と底知れぬ人物像が浮かび上がる、
傑作時代小説。
内容(「BOOK」データベースより)

時代を噛む。

本書は幕末に活躍した天才絵師・絵金を中心とした一冊。
闇と火があって初めて成り立つ絵金の絵の様に、
時代の寵児たちが、光と影をもって描かれています。
佳作。

模倣を至上命題とする狩野派
絵金を利用する土佐勤王党
そして
死を迎える幕府と旧態の画壇

本書も著者の例にたがわず、エンターテイメント色が強め。
しかし史実と創作の境界線をぼやかす筆が実に見事です。
それは作中にある絵金や贋作師・近森半九郎が描いた「瞳」、
濃淡のある真円の黒い虹を思わせました。
正直、人斬り以蔵や八代目市川團十郎の話は無理やり感もあるけれど、
それでも「絶対に無い」とは言い切れなくなってしまう。
そんな不思議な “辻褄” が本書には(も)あるんですよね。
これこそ『木下昌輝』の筆と、改めて感心しました。

因みに肝心の絵金は狂言回しの役割です。
常に存在するけれど、各話にあって決して主役とは言えません。
しかし、彼に関わった人物を周辺に配することで、
中心にある彼の存在を(輪郭を)クッキリと浮かび上がらせている。
本書は表現だけでなく、構成にあっても、濃淡の技が冴えています。

いやぁ~、本書のせい(?)で
僕は高知の赤岡に行きたくなっちゃいました。
勿論お目当てはおきゃく……じゃなくて土佐赤岡絵金祭り(笑)
装丁にもあった『花上野誉石碑 志度寺』を一度観てみたくなりました。
勿論、可能であれば昼ではなく闇夜、
百目蝋燭で妖しく浮かんだそれを観てみたいです。
そのとき僕が、作中の彼等の様に惑うのか目覚めるのか?
ちょっと恐い気もするけれど、その点にも興味があります。

蛇足で狩野派について。
僕は絵に疎い全くのド素人なんですが、
狩野派がなぜ徳川幕府の厚い庇護を受けていたのか。
その理由が腑に落ちました。
なるほど、狩野派の存在理由が家康のいた空間、
それを再生産可能とする事だったんですね?
それは新しいを否定し、ただただ技術を保存すると言う事。
ぶっちゃけ、狩野深幽のクローンを作るって事でした。
でもそれは挿し木か接ぎ木でしか繁殖しない
ソメイヨシノと同じく、やはり自然の理に反しており……。
絵金が噛み付き、息の根を止めたモノとは、
そんな時代の “歪み” だったのかも知れません。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

木内昇『火影に咲く』読了

幕末の京を駆けた志士と、想いを交わした女たち。
彼らが生きた、かけがえのない一瞬を鮮やかに描き出す珠玉の短編集。
内容(「BOOK」データベースより)

大きさは関係なし。

本書は幕末を舞台に、憂国の士と女たちを描いた6つの短編集。
多くはすれ違い、実を結ばぬ恋の花に、寂寥を覚えます。

彼一人の別天地 - 梁川星巌と張紅蘭
影達のそれぞれの日向 - 吉田稔麿と料亭の女将
身の丈を決めるのは - 岡本健三郎と売薬商の娘

内容はバッサリ略で一言、ムズムズします。
いや、決して面白くないと言う意味ではなく、
むしろ恋愛成分多めの本書は割りと僕のストライク(照)
それも幕末を真正面から扱った上での話ですからね?
面白くないわけがありません(キッパリ)
ただ本書のテーマである「男女のすれ違い」、
もう少し言えば大義の為に一身を賭す男と見送る女……と言う、
ある種の王道に対し(好物ではあります^^)、
今回は(たまたまだと思いますが)疑問が浮かんでしまいました。
それは

大きく国の未来と、小さく一人の女。
男はどちらを守る方が偉いのか?

勿論、日ノ本の未来を憂い、
己が命を捧げた全ての憂国の士には感謝の念しかありません。
それは思想に一切関わらず、
また歴史に名を残したかどうかも関係ありません。
今日の我が国の礎には無数の赤心があったこと、
僕は決して忘れません。
しかし一方で、たった一人の女の為に男が生きるのだって
同じくらい尊いんじゃないかな?って感じてしまいました。
例えば、作中『春疾風』の一編で女郎の菊島が、
女の幸せについて弱音を吐露し、
それを才気走った後輩の君尾が叱咤するのですが……。
こちらは女性からの視点ではあるけれど、
僕は彼女達の意見にも優劣はないと感じました。
さらには菊島の

温こう包んでくれればええ(本文より)

の発言に、性差を超えて強く共感したんですよね。
彼女の望んだそれはうだつの上がらない男の、
薄い胸と細い腕の頼りない空間だったとしても、
彼女にはかけがえの無い場所だったんじゃないかな。

大きく国の未来と、小さく一人の女。

King of 雑魚(ザコ)の僕が言うのもナンだけれど、
男が守らなくちゃいけないモノに、
やっぱり大きさは関係ないと思います。

因みに僕のお勧めは『光華』。
内容は割愛しますが読了後、
中村半次郎のウィキペディアを観て驚いてしまいました。
それはとある一枚の写真。
作中の一場面が鮮やかに蘇り、胸が締め付けられました。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

鈴木康介『アルコール依存症の妻と共に生きる-小学校長奮闘記-』読了

アルコール依存症の妻、校長先生の夫。
学校で発達障害の子どもたちを支えながら、
家庭でアルコール依存症の妻を支える日々を描いた自伝的小説。
内容(「BOOK」データベースより)

理解を求めず。

今回は前置きも内容もバッサリ略。
ただ「アルコール依存症」について期待すると裏切られます。
本書は様々な障害に対する見識と献身を兼ね備えた
「ひとかどの人物」を描いた作品。
あけすけに言えば自画自賛の奮闘記です。

また僕と同じ「アルコール依存症」の方には
本書を控えることをお勧めします。
理由は著者の寛容がどこか的外れの様に感じるから。
例えば

病気だから。障害だから。

本書は一貫して僕達を「守られるべき」存在とされています。
けれど僕達はそんなに単純じゃないし、
人格的に清潔な人間でもありません。
(ここでは発達障害を除き「アルコール依存症」だけを扱います)

そもそも「アルコール依存症」は病気と言っても
自業自得の割合が非常に大きいと考えます。
ありていに言えば軟弱野郎の自爆(あるいは言い訳)が
「アルコール依存症」です。少なくとも僕はそうです。
誰のせいでもなく、ましてや病気のせいでもなく、
ただただ酒を飲んで怨恨と呪詛を撒き散らす社会の害悪。
「可哀想だね」と守られるべき人間ばかりではありません。

僕は医療に助けを求め、健康保険のお世話になってしまいました
(大変申し訳なく思うと共に、心から感謝しています)。
だからエラソーに発言なんて出来ないのだけれど、
所謂「寛容」を自認する(例えば著者みたいな)方に
理解を求めません。もっと言えば

理解を拒みます。

僕個人に関して言えば、今後再飲酒による自損に対し
社会保障を含むいかなる救済も援助も必要ありません。
ですから

病気だから。障害だから。

そんな簡単に「アルコール依存症」を理解しないで下さい。
また、そう考える酒害者もいると少しだけ想像していただけたら、
何にも勝る応援と感謝します。それ以上は必要ありません。

最後になりましたが、奥様のご健康を心よりお祈りいたします。
由紀子さん、いままで辛かったですよね。
でもこれからは健康を取り戻し、
人生をもっともっと楽しんじゃってください。
僕も頑張ります。一緒に断酒を続けて行きましょう。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

村上春樹/フジモトマサル『村上さんのところ』読了

世界中から届いた3万7465通のメールを、たったひとりで完全読破し、
せつせつと書き連ねた3716の回答から、
笑って泣いて考えさせられる473の問答を厳選!
フジモトマサル描き下ろしイラスト満載の愛蔵版!
内容(「BOOK」データベースより)

村上主義者。

本書は読者との質疑応答シリーズ第三弾……になるのかな?(1,2,3
期間限定サイト「村上さんのところ」に寄せられた質問に対し、
誠心誠意と有耶無耶がおよそ7:3の割合で回答がなされています(笑)
ただ以前に比べれば「愉しさ」がスポイルされていた様な。

074.え、わたしが?
179.図書館で借りて読んでもいいですか?
399.「頑張れ」よりもほんわかする言葉

変らず膝を打つ話題もあったし、笑い転げるそれもあった。
心が揺さぶられる話だっていくつもありました。
けれど、読書中も読了後も僕は一貫して息苦しさを感じたんですよね。
それは以前に比べて明らかにポリティカルな話題が多く、
かつ偏りを感じられたからです。
勿論、この企画に「公正・中立」は必要条件ではないし、
むしろ村上さんの顔がみえる回答(主張)が僕の望み。
なので文句は一切ないのですが、
ただ以前ほどは楽しめなかったコトだけは確かです。
繊細な話題なので控えますが、

僕は「村上主義者」がいいような気がします。
「あいつは主義者だから」なんていうと、
戦前の共産党員みたいでかっこういいですよね(本文より)

本書の内容を鑑みると、
上記の一文があながち冗談でもないような気がして。
ちょっと恐い気もします。

因みに僕は村上さんがお勧めする「村上主義者」より、
少々軽薄でミーハー(?)な「ハルキスト」の方が好きです。
スワローズのファンみたいに表面上はあくまでも「ゆるく」。
そんな穏やかなスタイルで村上さん(とその作品)に
付き合って行きたい。そう願っています。

蛇足で嫉妬について。
それは「061.彼女の元カレをSNSで見つけてしまった」に
あったのですが、相談者は彼女の過去?に嫉妬してしまうそうです。
僕も形は違えど似たような経験があり、
彼の気持ちが手に取るように判る気がしたんですよね。
でも、村上さんのアドバイス(回答)で
僕の長年の悪癖(嫉妬癖)までもがスコンと落ちた気がしました。
その詳細は本文をご確認していただくとして、
これからは僕だけが知っている第一次情報を集めて行きたいと思います。
同様(?)に「208.100パーセントの女の子に出会えましたか?」の
回答も秀逸です。あぁ、やっぱり村上さんは「主義者」なんかより、
ちょっぴりミーハーで、それでいて誠実。
そんな「ハルキスト」の方が断然似合っています!^^/

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ FC2Blog Ranking
 励みにしますので、宜しければクリックをお願いします。
テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

Tag:読書  Trackback:0 comment:0 

プロフィール

yuki

Author:yuki
離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
ロックと読書好き。でも酒と煙草をやらないストレート・エッジです。

娘達
長女:える(雉猫17歳) 泣き虫で臆病。温厚だけど父ちゃんには我儘な女王様。妹がちょっぴり苦手。職業:父ちゃんの監視。

次女:ふう(白黒3歳) 暴れん坊で食いしん坊。皆が食べているものは私も食べる。お姉ちゃんともっと遊びたい。職業:父ちゃんの邪魔。
ユーザータグ

読書(929)
(567)
one_day(511)
ex_girlfriend(341)
my_ex(210)
ロックンロール(187)
アルコール依存症(170)
タラレバ娘(102)
自転車(34)

検索フォーム
FC2カウンター