西加奈子『こうふく あかの』読了

お前は誰だ。俺の子ではない、お前は誰だ。
39歳。男は、妻から妊娠を告げられた。
それが、すべての始まりだった。30年の時間が流れた。
内容(「BOOK」データベースより)

センチメンタリズムと穴。

本書は二ヶ月連続刊行された「こうふく」シリーズの第二作(1,2)。
妻に不義の子を宿されたサラリーマンの
男性視点による男女の違いが考察されていました。

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
それはやや捻くれた見方かもしれないけれど、
主人公の「俺」が(僕と同様に)女を “理解できない生物”
と達観していたからです。

勿論、僕だって「俺」と同じく、女が恋しくはなります。
精神的に寄り添いたいし、共感したい。
大きな声じゃ言えないけれど、物理的接触だってしたいですしね。
しかし一方で女と男の間には

絶対に超えることの出来ない大きな大きな溝(本文より)

があると(語弊を恐れずに言えば)殆ど確信しているんですよね。
例えば巷間に「男は下半身で考える」と良く聞きくけれど、
男の僕からすれば女の方が当て嵌まる(コトが多い)と
実体験から理解しているし、男女の認識の乖離を感じています。
主人公の「俺」と同じく、これ以上は
己の恥部をさらけ出すコトになるので控えたいのだけれど……。

それにしても著者の西加奈子さんは女性なのに
男性に対してもフェアな視点をお持ちだと感心しました。
いささか類型的だし単視眼的ではありますが、
男性のズルいところも、切なさみたいなところも
本作で見事に切り取っていた様に思います。

男のセンチメンタリズムと、女の穴。

結局、どちらも生臭くて、ぬるぬるしているのでしょう。
お互いがお互いを必要としつつ、
それでも無意識のうちで相手を嫌悪している(部分もある)。
それが男女の少し寂しい(けれど確かな)一面ではないでしょうか。

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西加奈子『こうふく みどりの』読了

お前んち、いっつもええ匂いするのう。
おばあちゃん、夫(おじいちゃん)失踪中。
お母さん、妻子ある男性を愛し、緑を出産。
藍ちゃん、バツイチ(予定)、子持ち。好きになったら年齢問わず。
桃ちゃん、4歳なのに、まだおっぱい吸いに来る。
辰巳緑、14歳、女未満。初恋まであともう少し。
内容(「BOOK」データベースより)

生きていればOK。

本書は二ヶ月連続刊行された「こうふく」シリーズの第一作(1,2)。
女しかいない辰巳一家に、因縁浅からぬ謎の女性。
それぞれの生き様や思考に趣がありました。

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
本書は下町の少女を主人公とし、
おまけに駄目なお母ちゃんも登場するとあって
どこか著者の『漁港の肉子ちゃん』に似ています。
もう少し補足するなら。肉子ちゃんから「笑い」を七割減らし、
「人生」を二倍にした感じでしょうか。
シリアスとも違うけれど、単純なハートウォームでもない。
それでも、一癖も二癖もある女性陣はいづれも
なんとも言いようの無い魅力がありました。

それは大きな声じゃ言えないけれど、
きっと男が望む魅力(女性らしさ)では決してない。
だらしないし、いい加減だし、
おまけに目は小さいし、太っている。
けれど、

みんないい匂いをしているんですよね。

それは実際的でもあるしメタファでもあるのだけれど、
これ以上に大切な事って無いのでは?と感じさせました。
例えば美少女の明日香ちゃんには悪いけれど、
僕は彼女振って別の女性(ネタバレ防止)に走った
コジマケン君の気持ちが(同性として)判る気がしました。
ですから緑ちゃんも……って、まぁ、どんまい(笑)

正直、全体的に広く浅くでありページ数が絶対的に足りません。
おかあちゃんと33万円さんの現在や、
棟田さんご夫婦のその後も気になるし、
何よりみどりの「道」をもっと明確にするべきでした。
ただそれも辰巳の女性たちが示した「生きていればOK」を思えば、
どの道を行くのかなんて、それほど関係ないのかも知れませんね。

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川澄浩平『探偵は教室にいない』読了

わたし、海砂真史には、ちょっと変わった幼馴染みがいる。
幼稚園の頃から妙に大人びていて頭の切れる子供だった彼とは、
別々の小学校に入って以来、長いこと会っていなかった。
変わった子だと思っていたけど、中学生になってからは、
どういう理由からか学校にもあまり行っていないらしい。
しかし、ある日わたしの許に届いた差出人不明のラブレターを
めぐって、わたしと彼―鳥飼歩は、九年ぶりに再会を果たす。
日々のなかで出会うささやかな謎を通して、
少年少女が新たな扉を開く瞬間を切り取った四つの物語。
内容(「BOOK」データベースより)

最後の一行。

本書は第28回鮎川哲也賞受賞。
選考委員が満場一致(とは言っても3人^^)と、
近年では珍しい圧勝(?)が話題となりました。
僭越ながら僕も異存はありません。

宛名の無いラブレターの秘密
合唱コンクールの影にある私欲
二股疑惑のイケメン男子

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
正直、前回受賞した今村昌弘さん『屍人荘の殺人』に比べたら
インパクトはないし新鮮味も乏しいけれど、完成度は上です。
プロットはこなれているし、筆も品よく抑圧されている。
「大作」と言うにはあまりにも小粒だけれど、
少なくとも減点する部分が見当たらない作品です。

また架空ではなく実在の地域や場所を舞台とするなど、
随所に(さりげなく)配置されたリアリティも良かったです。
日常系にしては珍しい、微かな没入感を覚えました。

探偵役の歩君が不登校である設定に「?」が付くし、
おっさん過ぎる台詞回しに違和感もある。
でもそれ以外は、主要人物5人のそれぞれが
14歳らしい一途な想いを抱いていました。
でもそれは決して

「純情」や「爽やか」だけのモノではありません。

けれど14歳って大切な何かのために、
呆れるほど全力を傾けられましたよね?後先なんて考えずに。
それが良いか悪いかではなくて、
そんな彼等の一途な想いに郷愁みたいなものを覚えました。

最後に。
本書はミステリィ成分ごくごく控えめの日常系ではありますが、
最後の一行の鋭さは『本格』ミステリィに全く引けをとりません。
特に第一話『Love letter from…』のそれが秀逸で、
ありがちな題材でありながら、
この一行(正確には最後から二行目)だけで
世間にある凡百を軽く飛び越えてみせました。
この鋭利な文章の刃を、みなさまも是非。

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佐藤正午『ダンスホール』読了

小説家は、気の病に見舞われ、仕事ができなくなり、
離婚も含め身の回りを整理していた。
一方、東京の企業に務める西聡一は、別れた妻からの頼みで、
ダンスホールで働いているという女性を捜しに、
この街までやって来ていた。――発砲事件に端を発し、
違法な物の受け渡しを巡って描かれる人間の再生。
誰にも書けなかった、ストーリーテリングな私小説。
内容(出版社内用紹介より)

結末なんていらない。

本書は「死様」をテーマに7人の作家で競作された作品のうち、
『佐藤正午』による一冊。
ミステリアスでハードボイルドな世界観に、
謎ときや結末の必要性を全く感じさせませんでした。

一度は死を覚悟した作家
別れた妻のため人探しをする男

物語は全く接点のない二人の男が、
奇妙な事件や怪しい荷物、過去の因縁や偶然によって
繋がっていく様子が描かれています。
でも結局二人の男は直接会うことも
電話で会話することもなく終わるし、
ほぼ全ての伏線は回収されないまま終わってしまう。
おまけに競作のテーマ「死様」も
イマイチ具体的な記述が見当たらない等、
ミステリィ好きには評価が分かれるかも。
けれど僕は全く問題なく楽しめたんですよね。
「のらりくらり」は『佐藤正午』の筆(スタイル)だと思うし、
さらに本作はテーマの「死様」も意識したんじゃないかな。

「死様」とは結末ではなく、その過程である。

謎は謎のままで終わるのが人生だし、
自分の「死様」も判らない(ことが多い)。
読書もどこかそれに似ていて、
途中が面白ければ僕は満足です。

蛇足でクリスマスソングについて。
作中、競輪場の最終レースの締め切り前に
ジョン・レノンのハッピー・クリスマスが流れて
作中の12月23日を少し寂しい情景へと誘導していました……
ってなコトで、皆様はクリスマスソングと言えば
どんな曲を頭に浮かべるでしょうか?
僕はなんと言ってもワムの『ラスト・クリスマス』と
山下達郎さんの『クリスマス・イブ』が二大巨頭。
でも上記2曲もそうなんですが、クリスマスソングって
幸せより悲しい曲の方が圧倒的に多いですよね。
世間には僕のご同輩が多いようで、ちょっと安心しちゃったり。

おまけ:
Happy Xmas (War Is Over)
BGM: John Lennon & Yoko Ono / Happy Xmas (War Is Over)

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赤松利市『鯖』読了

紀州雑賀崎を発祥の地とする一本釣り漁師船団。
かつては「海の雑賀衆」との勇名を轟かせた彼らも、
時代の波に呑まれ、終の棲家と定めたのは日本海に浮かぶ
孤島だった。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で管を巻く、
そんな彼らの生を照らす一筋の光明。
しかしそれは破滅への序曲にすぎなかった―。
第1回大藪春彦新人賞受賞者、捨身の初長編。
内容(「BOOK」データベースより)

五目釣り。

本書は一本釣り漁師船団を中心としたハードタッチの一冊。
しかし一部の描写を除けば、割りと気軽に楽しめます。

時代遅れの漁師船団
一本釣りによって跳ね上がる魚(鯖)の価値
そして
その鯖に目をつけるハイエナ達

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
正直、従前はもっと魚や漁業の話が多いと思っていましたが、
本書はもっとひろく、明らかにエンタメ志向……ってか、
ぶっちゃけ言えば『売れ線』狙いなんですよね。
例えば読者を誘う撒餌(テーマ)も

漁業、劣等感、反発、団結、世代交代、
貧富格差、美女、ハートウォームにバイオレンス、
そしてノワール……etcetc

とテンコ盛りであり、多くの魚(読者)を捕える気マンマンです。
さらには作風と言うか世界観も「足が早い」鯖のごとく、
目まぐるしく二転三転するので、
本書は『一本釣り』と言うより『五目釣り』の印象となりました。
まっ、おかげで最後まで飽きるコトはなかったんですけどね。
もともと鯖は毎日食べても飽きないし(なんのこっちゃ)

ただ個人的にはやはりもっと狙いを絞り、
さらにハードな路線にシフトすれば……とも感じました。
終盤に加速するノワールな世界も、リアリティに乏しく、
ある意味で安心して読めてしまったのが残念です。

蛇足です。
それにしても鯖って本当に美味しいですよね。
作中、とある玄海の料理人の台詞に

アジの淡い味わい、イワシの脂、中トロの香り、サワラの滋味、
カマスの野暮、そしてタイの品、さらにヒラメの揺るぎの無さ、
これらを全て含む魚は、極上のサバだけです(本文より)

とあって、読書中は涎が止まりませんでした(泣)
僕は青魚が大好きで、アジ、イワシ、サンマ、それに鯖なら
それこそ毎日でも毎食でもイケちゃうんですが、
最近はどれも缶詰さえ高くて高くて……。
一度でよいから伊東食品「美味しい鯖味噌煮」(セレブ向け缶詰)を
食べてみたい(笑)

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三浦しをん『愛なき世界』読了

恋のライバルは草でした(マジ)。洋食屋の見習い・藤丸陽太は、
植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、
三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。
見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、
サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たち
に支えられ、地道な研究に情熱を燃やす日々…人生のすべてを
植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!?
道端の草も人間も、必死に生きている。
世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
内容(「BOOK」データベースより)

愛はありますが、余分かも。

本書は植物学を題材にしたエンターテイメント。
研究者の資質でもある(?)ちょっと変った人達と、
彼等が愛してならない世界が、柔らかく、優しく、易しく
描かれています。

シロイヌナズナに夢中なD1の本村さん
料理が大好きで本村さんも大好きな洋食屋の藤丸くん
そして
愛の “ある” 世界

内容はバッサリ略で一言。悪くはないです。
ただ忌憚のないトコロを申せば、
折角の題材である植物学に対して記述が浅すぎます。
ミクロな話題やニッチな技術は兎も角、
その他、研究の世界の話は(多くの学生や経験者なら)
ほとんど常識の範囲にとどまってしまいました。

本書は心を持たない植物と、心を持つ人間の「愛」の対比
がポイントだとは思いますが、それは機械でも数学でも、
それこそ藤丸くんの料理の世界でも置換可能ではないでしょうか。
勿論、本書はエンタメなので
正確な情報を求めているわけじゃないけれど、
折角の(珍しい?)題材なのですからね?
もっと業界特有のウンチクを詰め込んで欲しかったです。

結局、以前『舟を編む』でも感じた様に、
三浦しをんさんのお仕事シリーズ(?)は少々ヌル過ぎて
あまり好みじゃないかも(ビクビク)

因みに植物学と同様に、本作は肝心(?)の『愛』も
中途半端に終わってしまいました。
また僕はフラフラ丸くん(あえて匿名)に親近感を覚えるですが、
彼女はそんなに魅力的かなぁ?(愛は盲目 by GUCCI)
僕は殺し屋教授が一番素敵に思えます(ポッ)

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長岡弘樹『救済』読了

元警官、ヤクザ、ノビ師…犯行動機に隠された「想い」とは?
巧妙に仕掛けられた伏線、トリック、ラストに驚嘆!
『教場』『傍聞き』の著者が紡ぐ最高のミステリ集!
内容(「BOOK」データベースより)

収まるところに収まる。

本書は『救済』をテーマにした6つの短編集。
『長岡弘樹』一流の短く、速く、刺激的を存分に味わえます。

震災による負傷とその再起。
抹殺される予定のヒットマンがとった行動。
民法の落とし穴に気がついた女。

前述で『救済』がテーマとしましたが、いづれも悪事は露呈するし、
情状酌量の余地がある行為(結果の犯罪行為)でさえも
決して見逃されるコトはない。また反対に被害を受けた人達の
名誉や財産、当然ですが命だって戻ることもないんですよね。
なので本作の結末(notテーマ)は『救済』と言うよりも
『収まるところに収まる』と言った印象を受けました。
ですが、その結末に嫌悪感は無いし、
むしろ作中のその後に続くであろう彼等の物語に
僕は『再生』みたいなモノも感じました。

また本作もどこからどうとっても『長岡弘樹』でしかありません。
ただ若干ではありますが、筆がこなれてきた印象も??
短編と言うより掌編なので、世界観が人物が……って話ではなく、
あくまでも文章だけの話ですが、以前に比べて滑らかです。
ファン(僕)として著者の経験値みたいなものを感じました。

蛇足で僕のお勧めは『夏の終わりの時間割』の一編。
男の子と知的障害を持つ青年の友情を描いた作品です。
そこでは放火事件が続けて発生しており、
知的障害者の青年が犯人として疑われるのですが……。
この続きは本書をご確認していただくとして、
僕がこの男の子の父親だったら彼を叱り飛ばし、
場合によっては張り倒すかもしれません。
当然、キチンと裁きも受けてもらいます。
けれど彼が帰ってきたら、僕は全身で彼を抱きしめるでしょう。
大きな声じゃ言えないけれど、君の心を誇りに思うと
両手に力を込めて伝えたい。

大丈夫。

信くんは必ず元気になるし、友情だって壊れない。
お母さんも、カマキリのおじさんも、
君の優しさを、勇気を、疑う筈がありません。

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森博嗣『森には森の風が吹く』読了

自作小説から趣味や思考にいたるまで、森博嗣100%エッセィ集。
内容(「BOOK」データベースより)

謙虚です。

本書は雑誌に寄稿した短文や他書の解説、
および書き下ろしの「自作小説のあとがき」を集めた雑文集。
他所?で発表した文章が多いせいか、
よそ行きの顔をした「森博嗣」が(も)伺えます。

書評や本に関するエッセイ
趣味に関するエッセイ
考え方、スタンスに関するエッセイ

まえがきある通り、100%ファンのための一冊です。
著者の言う

森博嗣を知らない人には、
おそらくまったく読む価値がない本である(本文より)

とは全く思わないけれど、
それでもファンへのアフター・サービスには間違いありません。
実際、本書の白眉は第1章「森語り」にある自作の解説であり、
例えば「ヴォイド・シェイパ」シリーズは既に完結している(*1)
とか、あるいは『相田家のグッドバイ』は

ほとんど事実である(本文より)

等、著者の大ファン(僕)として驚きや喜びも少なくありません。
それでも第3章「森人脈」にあった他人を賞賛する文章の切れ味、
第4章「森好み」にあった対象者・組織に対する厳しい指摘には
ファンでない方にも小さくない刺激となるでしょう。

きっと著者の態度は
世間一般で言うところの「謙虚」とは違います。

隠さないし、控えないし、恐れない。

それは著者の分析の確かさと、考察の深さ。
さらには自分(森博嗣)と言う観測地点がブレなさによる
絶対評価(相対評価の必要のなさ)によるモノ。
結果、自分を過大評価せず、
反対に過小評価もしない姿勢になったと感じます。
それを随所で(自身を発言や文章を)「謙虚」と言われると

え!?これで??

と思わないでもないけれど、
森博嗣流の「謙虚」だとは思います(笑)

前述の通り、本書はコレクターアイテムの域を出ないと思うけれど、
「森博嗣」のファンには絶対のお勧めです。

蛇足で著者の絵本『星の玉子さま STAR EGG』について。
僕は「森博嗣」の著作を9割(←謙虚に数字を控えてみました)は
拝読しているけれど(*2)、絵本は全くの手付かず。
けれど作中の「印税を受け取らない理由」を読んで、
俄然興味が沸きました。その内容は本書をご確認していただくとして、
謙虚な「森博嗣」をもってしてここまで言わしめる作品です。
早速拝読したいと思います。

*1……
実際、「森博嗣『マインド・クァンチャ』読了」のエントリで
僕は「まだ完結していない」と書いています。
そっかぁ、アレで終わりなんだ^^;

*2……
「自作小説のあとがき」を読んで不安?になったのですが、
もしかしたら僕は『どきどきフェノメノン』を未読かもしれません。
論文や絵本を除いて既刊はほぼ全て拝読しているつもりだったけれど、
漏れがあったのかな?(どきどき)

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深緑野分『ベルリンは晴れているか』読了

総統の自死、戦勝国による侵略、敗戦。
何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。
1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ
米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。
ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、
ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、
ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。
内容(「BOOK」データベースより抜粋)

晴れません。

本書はドイツ人少女・アウグステを中心に「良心」の在り方を問う一冊。
無慈悲と暴力の世界にあって、
善悪と心の関係性を鋭くリアルに抉っていました。
佳作。

内容はバッサリ略で一言、読了後も決して心は晴れません。
むしろ答えのない……いや「答えようの無い」冷酷な問いを
突きつけられた気分。黒くて厚い雲が心に残ってしまいました
(決して悪い意味ではないです)。

オビの通り一応はミステリィではありますが、
それはおまけ程度でしょう。
むしろ戦争の悲劇を多方面から(しかも実際的に)描いており、
その筆に容赦が無かったのが印象的。
また少女アウグステと泥棒カフカの道中が存外に長く、
上記の通りいささか陰鬱な描写が続くので
ページをめくる速度は一向に上がらなかったです。
けれど心は本書の世界に囚われ、
途中で読書から離れても他のコトに集中出来ませんでした。

結局、アウグステをはじめ、
生き残った多くの人物の未来は晴れたのでしょうか。
また死んでしまった者を含め、多くの人物の選択は
彼等の心を、良心を、晴れ渡すことができたのでしょうか。
ネタバレを避けますが、僕は非常に疑問だし、
もっと言えば(いづれも)決して晴れるコトはないと感じました。

偽善と自己満足

答えなんてどこにもないですよね。

蛇足でカフカがラスト近くで二者択一で悩む場面。
それが何であるかは本書をご確認していただくとして、
彼の選択結果は明記も示唆もされないまま終わってしまいます。
でも僕は彼が「隣に」あった方を選ぶと
ほとんど確信しているんですよね。
世の中そんなに綺麗事ではすまないから。
因みに僕だってカフカの立場だったら絶対に悩むし、
少なくとも彼の選択がどちらであっても、
僕には彼を責めるコトなんて出来ません。
ただカフカを殺したいほど憎む人の気持ちも痛いほど判るから、
やっぱり読了後も読者(僕)の心は晴れませんでした。

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朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』読了

いくら流行っているからといって、
経済的にも精神的にも自立した大人が、
なぜ一緒に住むのか(第1話「シェアハウさない」)。
その人がどれだけ「リア充」であるかを評価する、
「コミュニケーション能力促進法」が施行された世界。
知子のもとに、一枚の葉書が届く(第2話「リア充裁判」)。
親のクレームにより、幼稚園内で、立っている金次郎像が
座っているものに変えられた!(第3話「立て!金次郎」)。…
そしてすべての謎は、第5話「脇役バトルロワイアル」に集約される。

策士策に溺れる。

本書は独立した奇妙な短編4話と、
それらが集約される1話の合計5話からなる短編集。
タモリさんでおなじみのTVドラマ「世にも奇妙な物語」よろしく、
ちょっぴりブラックなお話が描かれています。

内容はバッサリ略で一言、期待した分はありました。
いづれもちょっと現実離れした話ではありますが、
身近にある「闇」を上手く扱っており、短編として上々です。
特にピリリッとスパイシーなオチは見事だと思いました。

ただし、最終話は要りません。

ネタバレになるので控えますが、
それまでの引き締まった世界を全て台無しにしており、
本作の価値を著しく毀損していたと感じます。
もう少しだけ補足すれば

策士策に溺れる。

になるのかも。
返す返すも本作を4話までで終わらせなかったこと、
残念で仕方がありません。

蛇足でとある女優さんについて。
これまたネタバレになるので多くは書けないのですが、
僕は本作に登場する人物の多くに(およそ5割)、
実在の芸能人をイメージすることが出来ました。
中でも『13.5文字しか集中して読めな』(←『い』は入りません)
に登場する板谷夕夏には明確にとある女優を重ねました。
その女優とは吉田羊さん。四十代の母親でありながら、
仕事が出来る美貌のキャリアウーマンだなんて、
吉田さんにピッタリだと思いませんか?
って、ここまででもうお察しかと思いますが、
僕も割りと吉田さんのファンでして(笑)
勿論、ブラウン管(液晶or有機el)を通してしか知らないから、
あくまでもルックスがタイプ(の一つ)って意味。
作中の板谷夕夏や、吉田さんが演じる様な女性上司が実在したら、
僕は出来るだけ係わりを避けたい……が本音かも^^;

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プロフィール

yuki

Author:yuki
離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
ロックと読書好き。でも酒と煙草をやらないストレート・エッジです。

娘達
長女:える(雉猫17歳) 泣き虫で臆病。温厚だけど父ちゃんには我儘な女王様。妹がちょっぴり苦手。職業:父ちゃんの監視。

次女:ふう(白黒4歳) 暴れん坊で食いしん坊。皆が食べているものは私も食べる。お姉ちゃんともっと遊びたい。職業:父ちゃんの邪魔。
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ロックンロール(198)
アルコール依存症(176)
タラレバ娘(111)
自転車(34)
縦結びの人(6)

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