志水辰夫『裂けて海峡』読了

海峡で消息を絶ったのは、弟に船長を任せた船だった。乗組員は全て死亡したと聞く。遭難の原因は不明。遺族を弔問するため旅に出た長尾の視界に、男たちの影がちらつき始める。やがて彼は愛する女と共に大きな渦に飲み込まれてゆくのだった。歳月を費やしようやく向かいあえた男女を、圧し潰そうとする“国家”。運命の夜、閃光が海を裂き、人びとの横顔をくっきりと照らし出す。
内容(「BOOK」データベースより)

馳星周の源流。

本書は『志水辰夫』のデビュー二作目となる長編ハードボイルド。
スリルとサスペンス、それにバイオレンス。
そこにユーモアのスパイスが隠し味になっており、
世に名高い『シミタツ』の筆を堪能しました。

謎の貨物船遭難事故
一人、真相究明にあたる「わたし」
そして
「わたし」を追う二つの組織

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
正直、中浦からの逃走(及び帰還)の場面等、中弛みはあったし、
大体において主人公「わたし」は精神で肉体を従属できる等、
いささかリアリティにも欠ける。
ありていに言えば劇画?漫画?ラノベ?の様にも感じられ、
少々肩透かしも感じました。

それでも個人と国家の戦いと言う手垢の付いたテーマも説教臭くなく、
あくまでエンターテイメントとして上手く活用されています。
たぶん物語は本書の発行時期の殆ど同じ昭和50年代であり、
戦後も冷戦も肌に感じられた時代だったと思います。
そう言った時代にあってこの割り切りの良さ
(社会派ではなくエンタメにバラメータ全振り)が
本書を名作とした一番の理由と感じました。

現代において本書を手にすると、いささか古臭さも否めません
(GPSが無い、スマホが無い、電子マネーが無い。
逆にエル特急なんて単語は久しぶりに目にしました^^)
それでもこの時代に『ツンデレ』を導入?したのは
先見の明があったのではないかな?
しかも今でも充分……ってか、滅茶苦茶「萌え」るんですよね。
女ざかり三十代の『ツンデレ』。花岡老人ではないけれど、
オッサン(僕)も理恵にメロメロです(照)

最後に。
本書は馳星周さんの『ゴールデン街コーリング』の作中、
主人公・坂本青年が絶賛していたので手にしました。
で、僕は読書中にふと気が付いたのですが、

一筋縄ではいかないハードボイルド。
目的のためなら手を汚すことを厭わない主人公。
そして何より短いセンテンスで情緒的な場面を描く……。

そんな処に馳星周さんは『志水辰夫』の影響を
少なからず受けていると感じました。
もう少し乱暴に言えば

『志水辰夫』からユーモア成分を除き、シリアス成分を倍加。
さらにノワール成分を大幅に追加したのが『馳星周』

になると感じます。
馳星周さんの大ファンとして、
その点からも非常に興味深く読むことが出来ました。

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木下昌輝『金剛の塔』読了

木造の五重塔は地震で倒れたことは無い!なぜか?
聖徳太子によって百済から連れてこられた宮大工が創業した世界最古の建築会社、金剛組をモチーフに描く連作長編。
内容(出版社内容紹介より)

変化の必要性。

本書は大阪四天王寺の五重塔を中心に、
現存する世界最古の企業、金剛組を描いた連作長編。
兵火雷火で七度倒壊しながら、
地震では決して倒れなかった五重塔が示すもの。
また技術とは伝承とは一体何か?を
金剛組の男達が女達が、そして小さき勇者が示しています。

心柱を立柱する二人の大工
不死鳥の異名を持つ左義長柱
百済の三人の寺造工と聖徳太子
そして
五重塔とスカイツリー

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
正直、フィクション成分過多であり、
素材(五重塔や金剛組)の面白さ(期待値)に比べて、
話の広がりには苦労している印象です。
それでも時代を行ったり来たり、
主人公達が挑む箇所もバラバラでありながら、
本書のテーマ、その「心柱」は一貫していました。
その心柱とは『変化の必要性』だったと思います

結局、硬直したモノはいつか必ず倒壊するんですよね。
常に外部や内部から揺さぶられ、晒され、劣化し、朽ちてゆく。
だからこそ五重塔もスカイツリーも変化を受け入れ、対応し、
自らの姿形を変えるのではないでしょうか。
それは技術も人(血)も、宗教や国だって同じこと。
変化を受け入れ、入れ替え、継ぎ足し、命を引き継いで行く……。

それは厳格な(狭義な)意味で以前とは違うモノかもしれないけれど、
その変化を悲観的なモノではなく、
むしろ肯定的なモノとして僕は受け止めます。
どんなに姿形が変わっても、意味が変わっても、
そこに込められた有形無形の意思みたいなモノは “永久” である。
そんな様な気がするからです。

蛇足で指矩(さしがね)について。
それは作中の聖徳太子が持っていたモノであり、
また規矩術の一つ『裏目』の技で使用されていたのですが……。
さて、皆様は指矩をご存知でしょうか。
素材は鉄(多くは磨かれた銀地)であり
ギリシャ文字の Γ(大文字ガンマ)に似た、
二辺で直角を作る定規です。
で、僕はこの指矩を親父が大工道具として持っていたので
子供の頃から身近にありました。
それを刀や鎌にみたてて良く遊んでいたのですが、
ずっと不思議に思っていたコトが一つあります。
それはウラと表で目盛りが違う、ってコトです。
結局、この歳まで不思議は不思議のままでいたのですが、
この作品によって長年の謎が解けたのです!!
それは

一方(表)は正規のcm(共に寸)であり
もう一方(ウラ)は実は表の1.1414倍にされた目盛りである。
つまり√2だったのです!!!

きっと皆様からしたら「それがどうしたの?」
って感じかもしれませんが、僕は非常に感動しました。
電卓も、そもそも数学って概念があるかどうかも怪しい昔に、
√2が大工道具になるまで庶民?(少なくとも職人の)
身近になっていた。使われていた。その事実に感動と言うか、
人の英知(その素晴らしさ)に想いを馳せてしまいました。

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森博嗣『MORI Magazine 2 超マイナ、けれども超スペシャルな「雑誌」第2号』読了

あのニュースの感想が変わる!2017年を振り返る。書き下ろしショートショート3篇。巻末付録:2018年の運勢付き。
内容(「BOOK」データベースより)

老人らしく。

本書は超マイナ、けれども超スペシャルな「雑誌」第2号(1,2)。
前号からさらに「雑」の色が濃くなり、
言い換えればテキトー成分が濃い目になりました(笑)
でも「雑誌」なら、これぐらいのテキトーがグッドです。

内容はバッサリ略で一言、よろしいんじゃないでしょうか(二度目)
正直、代わり映えしないし、取り立てて語るモノもない。
けれど、そこは「雑誌」ですからね?
読者(僕)もテキトーに読んでるし(笑)

中でも、書き下ろしショートショートは前衛が行き過ぎて理解不能。
また星座占いに至ってはせいぜい冷笑が良いところでしょう。
こんなにテキトーな雑誌も見たことがない(笑)
一応、著者の名誉の為に補足しますが、本書は

小説のようにすらすらとは書けません(本文より)

と、少なからず苦労された様子。
当然、執筆期間も(小説に比べ)長くなり、な、な、なんと!?
10日も掛かったそうです(鼻ホジー)

それでも、小説やエッセィに比べて装丁や構成には遊び心があり、
良い意味での「雑誌」らしさもありました。
特におなじみコジマケンさんのイラストは
ソフィスティケイトでありながら、非常にカラフル。
色数のコトではありませんよ?(二色刷りだし^^)
テーマに沿えながらも、かもし出す独自のニュアンスが多色です。

最後に老人らしさついて。
本書の特徴として、年齢(世代)に関する話題が多く感じられました。
それは大体において若者に優しく、
老人にはやや厳しい印象ではありますが、
親身なアドバイスだってありました。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
僕も「老人らしく」ふるまいたいと思いました。
例えば老人なら

若者に席を譲りましょう。

大切なのは「自覚」であり、
抗うことでも、諦めることでもありません。

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熊谷達也『エスケープ・トレイン』読了

サイクルロードレーサーの小林湊人が所属するエルソレイユ仙台に、梶山浩介が加入することになった。梶山は、16年前にヨーロッパに渡り、ツール・ド・フランスにも8回出場、世界のトップレベルで戦ってきたレジェンドだ。今季限りでの引退も囁かれていた梶山が、なぜ日本の、しかも新参チームに…。図抜けた実力を持つ梶山の加入でチームは、そして期待されながらもどこか抜けたところのある湊人は、どう変わっていくのか?
内容(「BOOK」データベースより

覚醒。

本書はサイクルロードレーサーの成長を描いた一冊。
パッとしない?青年が大人に見守られて覚醒する姿に、
なんとも言えぬ温かい気持ちになりました。

陸上競技から転向してまもない新人レーサー
世界と戦ってきたレジェンドレーサー
そして
一人を羽ばたかせる多くの意思

内容はバッサリ略で一言、とても良かったです。
正直、サイクルロードレースについての深みはなく、
コアなファンには物足りないでしょう。
けれど、レースの真髄、その面白さについては過不足なく、
観るだけのファン(僕)として充分に楽しめました。

サイクルロードレースの魅力は沢山あるのだけれど、
「サクリファイス(自己犠牲)」はその筆頭ではないでしょうか。
レースはどこまで行っても個人競技ではあるのだけれど、
その一方で多くの犠牲がなければ絶対に勝てない。
個人競技なのに団体戦でもあるんですよね。
そこに僕はたまらない魅力を感じるのだけれど、
レーサーだって人間だから、
そんなに簡単に割り切れるものでもないと思います。

だから、託すのではないでしょうか。

本書では「世代交代」もテーマの一つだったと思うけれど、
それを「トレイン」に見立てた点は見事です。
かつてのエースが露払い(風除け)となって次のエースに託し、
そして消えてゆく……。

もう一つのテーマに「覚醒」もありましたが、
主人公・湊人が得たその「覚醒」でさえ、
多くの犠牲があったからだと強く確信します。

あぁ、本当にサイクルロードレースは素敵だなぁ。
トレインの先頭を走る美学を
(風除けになり、後続の発射台になる。自分に勝利は無い)
どこか自分の人生に重ねてしまいます。

蛇足で「覚醒」について。
作中、湊人とアシスタントの瑞葉が「覚醒」から連想する
とあるアニメが二つ話題にあがるのですが……。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
僕は圧倒的にガンダムです
(ネタバレでスミマセン、二つのアニメのうちの一つです)
もう議論の余地なくガンダム。
僕もこの額に稲妻が走り、ティキーン!って音が鳴る瞬間を
30年以上前からずーーーっと待っています。

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吉田修一『東京湾景』読了

「愛してないから、こんなに自由になれるの」「それでも、お前と一緒にいたかったんだよ」。品川埠頭の倉庫街で暮らし働く亮介が、携帯サイトの「涼子」と初めて出会った25歳の誕生日。嘘と隠し事で仕掛けあう互いのゲームの目論見は、突然に押し寄せた愛おしさにかき消え、二人は運命の恋に翻弄される。東京湾岸を恋人たちの聖地に変えた、最高にリアルでせつないラブストーリー。
内容(「BOOK」データベースより)

心は変わるけれど。

本書は『吉田修一』による都会の片隅のラブストーリー。
飾ることの無い若者達の姿と、不器用な心の交換に、
最後まで一喜一憂となりました。
佳作。

愛した女に去られたことがある亮介
身体以上に男女を繋げるモノを知らない美緒(涼子)

内容はバッサリ略で一言、はぁ~良かった。
正直、途中までは可もなく不可もなくだったけれど、
それを補って余りあるラストです。
自分でも単純(もしくは馬鹿)だと思うけれど、
ラストの亮介のノリが僕は決して嫌いじゃありません(笑)
かな~りオマケが入っているけれど、このラストだけで評価は佳作。
僕も亮介のノリに触発されたかな?(笑)

正直、一昔前のトレンディ・ドラマ?って感じで
割とライトな内容です。
随所で『吉田修一』らしい生々しい筆(描写)も味わえますが、
本作は明らかにエンターテイメント寄り。
『吉田修一』の独特な深みを期待すると肩透かしになるでしょう。
それにしても……。

『吉田修一』はこんな胸キュン(?)な
ラブストーリーさえも書けるんですね?
昔から著者は「変幻自在の筆」だと感じていたけれど、
本作で改めてその「変わり身」には驚きました。
全く無いとは言わないけれど(実際多少はあります^^)
『吉田修一』にマンネリって言葉は似合いません。

最後に。
本作はトレンディ・ドラマらしく?森高千里さんの『雨』や
ベン・E・キングの『スタンド・バイ・ミー』が劇中歌として登場します。
だからかな?僕は亮介が人を好きになる瞬間、
そのスイッチみたいなモノについて語る場面で

だけど こころなんて お天気で変わるのさ~♪

と、アン・ルイスさんの『六本木心中』が頭の中で流れました。
その内容は本書をご確認していただくとして、
僕はたとえ「心」はあっけなく変わっちゃうモノだとしても、
時には道徳や倫理さえも超えちゃうのが「心」だと思うのです。
だから、たかが明日のことなんて心配しても意味がない……
そう実体験からも感じました。

人生は短いですからね。

明日を恐れ、今の気持ちに予防線を張るのもツマんないし、
心の命ずるままガンガン前に進みましょう(笑)

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早坂隆『指揮官の決断-満州とアッツの将軍樋口季一郎-』読了

昭和十三年、ナチスに追われたユダヤ人を満州に逃がした陸軍軍人・樋口季一郎。五年後、戦局が傾く中、今度は司令官として非情の決断を迫られる―。運命に翻弄されたヒューマニストの生涯を追い、戦場における生と死のドラマを描く力作評伝。
内容(「BOOK」データベースより)

揺るぎない信念

本書は太平洋戦争時の陸軍軍人・樋口季一郎を描いた評伝。
戦争という誰をも狂気に駆り立てる時代にあって、
貫き通したヒューマニズム。
その揺るぎない信念に、尊敬の念が尽きません。
良作。

内容はバッサリ略で一言、洗われます。
本音を言えば、日本人としての誇りや、
反対に激しい悔しさを覚える箇所もありました。
けれど、それ以上に樋口季一郎がもつ人類普遍の愛に
澱んだ僕の心も洗われました。

ナチスに追われるユダヤ人を救ったオトポール事件
明暗を分けたアッツ島玉砕とキスカ撤退作戦
そして
卑劣なソ連侵攻を防いだ占守島の戦い

僕が日本を愛する日本人だから……と、この駄文が
ひいては本書が偏向したモノとされるのは不本意です。
ですから今回は内容に関する全ての個人的感想を控えます。

是非皆様におかれましては
個々にあるイデオロギーのフィルターを一旦排除して
本書を手にして欲しいと思います。
国や人種、敵も味方も関係ないヒューマニズムとは何か。
それを樋口季一郎が身を持って示しています。

最後に。
時代に関係なく、樋口季一郎と同じことは勿論、
また比べようもなき小さなことではあっても、
僕が氏と同じ様に振る舞う自信は全くありません。
なのでエラソーなコトは何一つ言えないのだけれど、
それでも樋口季一郎が実在した事。
氏も(大変僭越ではありますが)僕と同じ人間であることに、
勇気みたいなモノを覚えました。
今後は(情けないですが)たとえ長いものに巻かれるとしても、

悪いことは悪い

その気持ちだけは絶対になくさないように。
小さいけれど、僕はそこからはじめようと思います。

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奥田亜希子『魔法がとけたあとも』読了

昨日までの自分と、今日からの自分。世界が変わっても、私はここにいる。私たちの身体に起きた、あれこれ。そこから見えてくる、新たな景色とは―。爽やかな共感と希望をもたらす五編。
内容(「BOOK」データベースより)

代わりの光。

本書は輝いていた過去と、くすんだ現在の対比を描いた5つの短編集。
やもすれば鬱屈に捕らわれてしまう状況の中、
小さくても新たな光をみつける主人公達。
そんな姿に心が温まりました。

模範的な妊婦のちょっとヤンチャな過去
鼻の付け根のほくろに、増えた一本の線
DVで傷ついた元エースと、DVで気が付いた元ショート

内容はバッサリ略で一言、はぁ、良かった。
いづれもよくある話ではあるけれど、
だからこそその光景が瞼に浮かびます。
多くは女性が主人公だったけれど、
過ぎ去った日々が月日と共にドンドン輝きを増して行く。
それって男女共通ですよね?
過去を振り返っても仕方が無いけれど、
そう簡単に割り切れるモンじゃない。
それも男女共通ではないでしょうか。

ただ、現在にだって代わりの光はあります。

それは過去の光に比べたら随分頼りないのだけれど、
それでも現在の自分を温めることは出来る。
本書に示されていたのは、そんな柔らかな光だったと思います。

これは個人的な話になってしまいますが、
最近僕は取り戻せない過去を嘆いていました。
でも本書のおかげで心が軽くなった様な気がしたんですよね。
なので、もし過去にクヨクヨしている方がいらっしゃるなら、
そーっと本書をお勧めしたい。そう思います。

さらに蛇足で印象に残った一編をご紹介。
それは『彼方のアイドル』であり、
二人の同じアイドル(?)を愛した二人の女性のお話です。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
僕は主人公の女性にかつての恋人を重ねてしまいました。
全部が全部同じではないし、彼女の対象は同じ男性グループでも、
歌って踊れるアイドルではなく、骨太なロックンロールバンド。
けれど、作中の主人公と同じくライブが(ハコが)大好きで、
文字通り人生とリンクしている。そんな点がそっくりでした。
本当はもっともっと重要な同一事項があるのだけれど、
それについては僕だけの秘密。
けれど、最近僕が嘆いていた過去は彼女とのそれだったので、
本書を手にしたタイミングといい、
ちょっと忘れられない一編になりそうです。

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川端康成『眠れる美女』読了

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女―その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作『眠れる美女』のほか二編。
内容(「BOOK」データベースより)

所有物。

本書は川端康成の中編小説であり
ある意味で(しかし間違いなく)
エロティシズムとフェティシズムの到達点。
控えめに言って完璧です。

まずは表題作の『眠れる美女』
何十年も経て(年齢を重ねて)再読しても不可解な点は残ります。
本筋で言えば最後の女の子の死がそうだし、
脇道なら「きむすめのしるし」。
しかしそれも些細なコトなんですよね。

腐敗間際の熟れ過ぎた匂い。

そんな愛好と嫌悪の境にあるようなエロティシズムを
若い頃の何倍も深く堪能することが出来ました。

次に『片腕』
悪くはないけれど、他の二編にくらべると一つ落ちるかも。
パーツを愛するフェティシズムは良いとして、
ラストの「私」の自分勝手な狼狽が(僕には)唐突に感じます。
「愛でる」って、離れてないと駄目なの?

最後に『散りぬるを』
きっとあまり評価は高くないと思うけれど、僕は割りと好きです。
因みに本作を乱暴にまとめれば「もったいない」。
ココでは何がもったいないかは省略するけれど、
僕はそんな身も蓋もない潔さ(?)が嫌いじゃありません。

以上、本書の三作に共通するのは
女が男の「所有物」として語られている点ではないでしょうか。
勿論、それも当時の常識の範疇だし、おおむね倫理にも適っている。
ジェンダー論には触れたくないけれど、
それでも女を男と同じ箇所に立たせてはいません。
現代では口にするのも憚れるけれど、しかしこの感覚が
エロティシズムの、フェティシズムの真髄でもある。
僕はそう感じました。

本書はとあるキッカケで手にしたけれど、
やっぱり川端は良いなぁ。
日本の文豪の中では一番好きだし、一番性に合います。

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横山秀夫『ノースライト』読了

一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに…。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば…。このY邸でいったい何が起きたのか?
内容(「BOOK」データベースより)

柔らかな光。

本書は一級建築士を中心に、人生の来し方、
あるいは行く末を描いた一冊。
多くの人生に柔らかな光を与えており、
どこか「再生」のキーワードが思い浮かびました。

内容はバッサリ略で一言、良かったです。
正直、著者は警察小説の名手なので、
従前はもっとハードな作品を予想したし、期待しました。
結果、それは外れてしまったのだけれど、
人生の侘び寂びみたいなモノを堪能する事ができました。

タイトル『ノースライト(北窓の明かり)』の通り、
本作に直截的なモノは一切ありません。
主人公・青瀬をはじめ多くの人生はさほどドラマチックではないし、
消えた吉野や「タウトの椅子」の謎もおよそショッキングではない。
ラストで示唆された未来だって
決して “まばゆい” モノではありません。
けれどノースライトは昔から職人の手先を照らして来た様に、
彼等の人生の足元に柔らかな光を与えました。そして、

それで充分ではないでしょうか。

人生は長い旅かも知れないけれど、
結局僕達には「今」しかありません。
先の見えぬ未来に明かりを向けるより、
足元を照らして確実に歩を進めよ。
本作はそう語っていたようにも思います。

ここからは蛇足です。
本作にはいくつかの印象的な(短い)センテンスがありました。
例えばゆかりと交際中にあった「過去はそのためにあった」や
悲しみに崩れるマユミに対して放った「死ぬときは一人だ」。
さらには自責の念にかられる八栄子を前にして

どんな時でも、涙が連れ去っていくものがある(全て本文より)

には、作中で一番強くノースライトの光を感じました。
それは乱暴に言えば「再生」や「救済」になるのかな。
罪は罪としてあると思うから、
間接照明の様に控え目な意見になるけれど、
泣いて楽になるなら泣けば良い。僕はそう思います。
大の男はどうかと思うけれど、どうしてもと言うなら
暗闇に隠れて一人で泣けば良い。
どんな人でも楽になるなら、きっと泣くべきです。

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長崎尚志『ドラゴンスリーパー』読了

“パイルドライバー”の異名をとる元刑事・久井重吾の元に訃報が届いた。元上司だった諸富幸太郎が残酷な手口で殺害されたというのだ。しかも十三年前の未解決少女殺害事件の手口と酷似していた。イマドキの刑事・中戸川俊介とコンビを組み、アドバイザーとして捜査を開始した久井。やがて、諸富が引退後も追っていた未解決事件の裏に、不法滞在中国人―鼠族の存在が浮かび上がり、県警警備部も事件を追っていることが判明。直後、第二の殺人が…。謎が謎を呼ぶ事件の犯人の正体は?進化を遂げた警察ミステリー。
内容(「BOOK」データベースより)

いじめの輪廻。

本書は「パイルドライバー」シリーズの第二弾(1,2)。
いじめとその復讐を描いており、
輪廻する負の感情に背筋が冷たくなりました。

十三年前の未解決事件・少女の残虐殺人
同時期に発生した夫婦とその友人の惨殺事件
そして
二つの事件を追った引退刑事の死

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
残虐な事件ではあるけれど、前作よりリアリティを感じられたし、
我田引水な部分も大幅に減りました。
簡潔に言えば前作よりシンプルになったと思います。

が、それでも詰め込みすぎです。

博覧強記、薀蓄満載は著者の拠って立つ処ではあるけれど、
それでも中国の犯罪組織(青幇。また三合会や蛇頭など)
の歴史は横道にそれ過ぎた感もあるし、
ウェールズの書物『マビノギオン』はハッキリと邪魔です。
訳の判らない要約が長々と続き、
僕は読書の興を削がれる事、割と甚だしかったです。

メインストーリは良いし、動機もオチも犯人も(影の主導者も)
決して悪くない。むしろ「いじめの輪廻」、
すなわち繰り返される悲劇を無情に描いた点は秀逸です。
でも感想は「面白い」の次に「もったいない」
が来てしまうんですよね。
僭越ではありますが、僕は文字数はそのままに、
しかし詰め込む題材を減らした方が良いと感じました。

で、空いたスペースに何を書くかと言うと、やっぱり人物。
もっと言えば(本作の場合は)恋愛になるでしょうか。
作中、とってつけた様な恋愛もありましたが、
二人の年齢差や、そもそもお爺ちゃんと言って良い男性が、
妙齢で聡明でおまけに単身の美女に懸想される理由。
そこをもう少しなんとかしないと誰もが納得しないと思います。
例えばお爺ちゃんに足を突っ込んでいる僕なんか
ほぼ憤慨レベルで鼻白んでしまいましたよ?

こんなのありえねぇ!

って。男性読者なら薀蓄は好まれると思うけれど、
女性の口説き方?だって興味を引くのではないでしょうか?
知らんけど(←一度使ってみたかった^^;)

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プロフィール

yuki

Author:yuki
離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
ロックと読書好き。でも酒と煙草をやらないストレート・エッジです。

娘達
長女:える(雉猫18歳) 泣き虫で臆病。温厚だけど父ちゃんには我儘な女王様。妹がちょっぴり苦手。職業:父ちゃんの監視。

次女:ふう(白黒4歳) 暴れん坊で食いしん坊。皆が食べているものは私も食べる。お姉ちゃんともっと遊びたい。職業:父ちゃんの邪魔。
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