東山彰良『夜汐』読了

文久三年。やくざ者の蓮八は、苦界に沈んだ幼馴染み・八穂を救うため、やくざの賭場から大金をせしめた。報復として蓮八に差し向けられたのは、凄腕の殺し屋・夜汐。京で新選組の一員となり、身を隠すことにした蓮八だが、ある日八穂からの文を受け取る。帰ってきてほしい…その想いを読み取った蓮八は、組から脱走することを決意。土方や沖田からも追われながら、八穂の待つ小仏峠に向かうべく、必死で山中を進む。だが、夢で蓮八に語りかけ、折りに触れ彼を導くのは、命を狙っているはずの夜汐だった―。
内容(「BOOK」データベースより)

心と身体。

本書は直木賞作家による初の歴史時代小説。
ふてぶてしいまでの生と、理不尽な死が描かれており、
どこか観念的な心境にもなりました。
佳作。

殺し屋に追われながら八穂の下へ走る蓮八
心と身体を分けて蓮八を待つ八穂
そして
蓮八を追う死の化身・夜汐

内容はバッサリ略で一言、強烈です。
正直、大筋も細部も大雑把であり、
完成度は決して高くはありません。
例えば新撰組との組み合わせは意味が見出せないし、
エピローグはとってつけた感が拭えない。
主役も二転三転する印象で、おまけに彼等の人物像も
くるくる変わってしまいました。
けれど、本作は綺麗事でない何かを訴えるんですよね。
それを「生と死」とするのは簡単だけれど、
僕はもっと生臭くて、同族嫌悪に近い衝撃を感じました。
例えば

好いた男のためなら明日などいらぬ女を演じる……
ひどく億劫だった(本文より)

など、卑しいまでのエゴを何度も突きつける。
おまけ込みではあるけれど、
これらの強い印象だけで僕は佳作としました。

本書は著者の『ブラックライダー』や『罪の終わり』に
非常に通じるモノがあると感じます。すなわち

愛と暴力、生と死、神と悪魔……

そんな黙示録的なナニかです。
上記の作品が好きな方には絶対のお勧め。

蛇足で心と身体について。
作中、夜汐は閨を共にした女郎に対し「あんたは大丈夫だよ」
「どうあっても汚されないものをちゃんともっているから」
と語ります。その詳細と言うか発言のニュアンスは
本書をご確認していただくとして……。
僕はここで「汚(けが)されない」とされた心だけではなく、
彼女の(女たちの)身体だって汚されたとは思わないんですよね。
心と身体は別ち難くあるモノだと思うから。
なので八穂が心と身体を分けるしかなかったとされたコトに、
同情と同意を覚えるのだけれど、また一方で、

心があれば身体は汚(けが)されないし、
身体さえ残っていれば心が戻る事もある。

と考えます。

それは蓮八(男)だって同じ事。

結局、僕達は過去も未来もなく、
今は誰といるのか?誰といたいのか?なんだと思います。
良いも悪いもありません。男女はそれしかないのでは?

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池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』読了

「宇宙(そら)から大地へ」。
準天頂衛星「ヤタガラス」が導く、壮大な物語の結末は…。
内容(「BOOK」データベースより)

クローザー。

本書は大ヒット『下町ロケット』シリーズ第四弾。
前作『下町ロケット ゴースト』から続く「宇宙から大地」編の後編です。
結局、企業や農業によって作られるモノとは、
志(こころざし)がカタチになったモノと知りました。

大企業の論理とベンチャー企業の論理
会社の利益と社会の利益
そして
物づくりの基本とは?

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
ただ、それは間違いないのだけれど、
シリーズで一番印象が薄く感じてしまいました。
それはマンネリを打破するためだと思いますが、
いつもの単純な勧善懲悪ではなかったから。

味方が裏切り敵になり、そしてまた手を組む。

結果、物語に弱冠の深みは出ましたが、
スッキリ感は減少してしまいました。
意見は分かれると思いますが、僕が求めていたのは
「お約束」や「様式美」と言ったワンパターン。
頭を使わない読書(←褒め言葉)の提供にこそ、
『下町ロケット』の魅力ではないでしょうか。

本書は「宇宙から大地」編を締めくくるクローザー。
結果は1回打者4人で被安打2。自責点1で試合終了。
勿論、チームは勝利でセーブ1がついた……って感じかな?
(なんのこっちゃ^^)

それにしても佃製作所の次のチャレンジは何ですかね?
ロケットのバルブから人工心臓、
またロケットで打ち上げた準天頂衛星から無人農業機械と、
レガシィの継承が前提条件とするならば……。
僕は全くの素人ではありますが、
次はズバリ『再生可能エネルギー』と予想します。
エンジン、トランスミッションから発展し、
具体的には小型の風力発電なんて如何でしょうか?
(発電量の安定の為、風力とエンジンのハイブリッド)
最先端とは言わないけれど、ある程度のトレンドは抑えているかと。

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馳星周『ゴールデン街コーリング』読了

1985年、ゴールデン街で出合った希望と興奮、孤独と失望。
本を片手に安酒を呷り、煙草をふかし、見えない未来に焦る日々。
―そして事件。最初で最後の自伝的青春小説。
内容(「BOOK」データベースより)

許せなくても。

本書はノワールの旗手『馳星周』の自伝的青春小説。
主人公・坂本青年の内で愛と憎しみが相克する様子に、
どこか僕の青春を重ねてしまいました。
良作。

田舎から出てきた本好きな少年
本好きが集まるゴールデン街のバー
そして
許すべきことと許せないこと

内容はバッサリ略で一言、とても良かったです。
正直、書きたい話題が山ほどあり、紙面?が全く足りません。
断腸の思いではありますが、駆け足でご紹介。

本書のテーマに「愛憎の相克」があったと思います。
坂本青年のそれは憧れだった都会(ゴールデン街)であり、
書評家で酒乱の店主。そして

美しい言葉を口にしながら、実際は反対の行いをする(本文より)

多くの大人たちでした。
でもそこに坂本青年も含まれて行くんですよね。
自分は決してそうはならないと誓ってはいても、
周りに、お酒に流されて、いつしか彼等と同じになって行く。
そんな自分に煩悶する様子が、語弊を恐れずに言えば
とても愛おしく感じてしまいました。

また愛と憎しみの延長線上に「許すこと」も
本書の重要なテーマだったと思います。
で、ネタバレに繋がるので控えますが、
僕はこの歳になってこう思うようになったんですよね。

どうしても許せないなら許さなくても良い。
その代わり離れよう。

若者には「老人の処世術」と蔑まれるかも知れないけれど、
それでも憎しみの果てに、互いを傷付けあうよりはずっと良い。
それは許せない自分を憎んでしまう時も同じコト。
許さなくても良いから、そんな時は嫌いな自分から離れた方が良い。
酒に溺れていたあの頃の僕にも、そう伝えたいです。

本書は青春を経験した(つまり全ての) “男性” にお勧めです。
中でも青春が

お酒と小説とロックで占めた男性(坂本青年は5:4:1の割合)

つまり殆ど僕みたいな男性に強くお勧めします(僕は3:1:1)。
いつも何かに怒っていたご自身に、きっと会えるでしょう。

ここからは蛇足。
本書では多くの素晴らしい小説や映画にも触れられています。
そしてその中には沢木耕太郎さんの『深夜特急』もありました。
IMG_20190207_180532.jpg
この歳になって青春だなんて恥ずかしいコトは言いません。
けれど別れた彼女の愛読書を、そのタイトルを目にするだけで、
「なぜあの時、許せなかったのか」
そんな後悔がこの歳になっても蘇ってしまいます。

ささいな行き違いでした。

あの時、お互いが相手を許せなくても、
ホンの少し時間を置けば(距離を置けば)
結果は180度違っていた筈。
許せないなら、きっと離れるべきです。

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伊坂幸太郎『フーガはユーガ』読了

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。
内容(「BOOK」データベースより)

代替不可能。

本書は不幸な人生を共に抗う双子の物語。
徹頭徹尾ファンの期待する「伊坂幸太郎」ではありますが、
最後まで苦すぎる話が続きます。ご注意を。

虐待を受けて育った双子
虐待を受けている少女
そして
ひき逃げを手始めに児童を狙う犯罪者

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
前述の通り、数々の伏線が最後に(一気に)繋がる様子は
流石の「伊坂幸太郎」であり、満足感を覚えました。
ただし、結末を含めて僕にはハッキリと苦すぎする作品です。
ネタバレになるので控えますが、
とある人物への暴行場面は吐き気を覚えてしまいました。

重箱の隅をつつけば、お得意の伏線回収も少々雑に思えます。
また、とある人物を僕はほとんど最初から怪しいと睨んでしまい、
実際そうだったことも念のため?付記しておきます。
きっと多くの方が僕と同じガッカリ?を味わうと予想します。

蛇足で双子について。
僕自身は双子ではないのだけれど、
長年、これ以上はない身近で双子を観察してきました。
で、思うのですが、彼等はやはり別人なんですよね。
同じ DNA を持って生まれても、また

僕たちはまさに、一足の靴で、
どこに行くのも大体一緒(本文より)

で育ったとしても、何一つ同じにはなりません(当然顔も違います)。
本作の「アレ」みたいに、たとえ場所の入れ替わりが可能でも、
その人の代替は絶対に不可能なんです。
またそれは双子に限らず、どんな人だって同じコト。
例えばアナタの愛する人のコトを想像してもらえば、
お解かりいただけると思います。

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天野純希『雑賀のいくさ姫』読了

イスパニアのイダルゴ(騎士)の家系に生まれたジョアンは、乗り込んだ船での内紛と難破のはてに、紀伊雑賀のいくさ姫、鶴に拾われる。鶴はカラベル船を修復した「戦姫丸」に乗って商いのためにジョアンらと南洋に向かうが、海賊や大名の思惑、そして過去の因縁に巻き込まれていく。雑賀、村上、毛利、大友、島津―戦国の西国大名オールスター水軍が、日本を狙う大海賊と雌雄を決する。
内容(「BOOK」データベースより)

二匹目のドジョウ。

本書は紀州雑賀のいくさ姫・鶴の活躍を描いた作品。
日ノ本の趨勢を決める海戦には迫力がありました。

イスパニアのイダルゴ
日本を狙う明の海賊
そして
団結する日本の水軍たち

内容はバッサリ略で一言、普通です。
特に悪くはないけれど、残るモノもみつからない。
サックリ読めるので、用途を絞ればそれなりに吉でしょうか
(例えば暇つぶし)

本作は歴史モノというより、ハッキリとファンタジーです。
言い換えればラノベになるけれど、
それはそれで良いのです(僕も個人的に嫌いじゃないし)。
ただ、当初はキャラクタ・モノとして始まったと思うのですが、
徐々にそれも薄れ、商いを軸にした航海モノになる……
と思いきや、最後は戦闘モノになってしまいました。
斯様にテーマもディテールも行き当たりばったりであり、
さらには肝心なキャラクタさえも
中途半端に終わってしまいました(ラノベ失格)。
正直、読書前から和田竜さんの『村上海賊の娘』が
頭にチラついていたのだけれど……。
残念ながら二匹目のドジョウはいませんでした。

蛇足で鶴を守る従者の兵庫。
彼は剣の達人であり、その立ち位置と何より隻眼から
僕は柳生十兵衛をイメージしました。
けれど次第にその姿はキシュワード(アルスラーン戦記)となり、
最後はマルス(ファイアーエムブレム)になったんですよね。
我ながらミーハーだと思うけれど、上記で兵庫をイメージできる方は、
僕とご同輩です^^

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百田尚樹『日本国紀』読了

私たちは何者なのか―。神話とともに誕生し、万世一系の天皇を中心に、独自の発展を遂げてきた、私たちの国・日本。本書は、2000年以上にわたる国民の歴史と激動にみちた国家の変遷を「一本の線」でつないだ、壮大なる叙事詩である!当代一のストーリーテラーが、平成最後の年に送り出す、日本通史の決定版!
内容(「BOOK」データベースより)

日本人として。

本書は日本の通史を「物語」として記した一冊。
日本を知る入門書として多くの方にお勧めしたい作品です。
良作。

内容はバッサリ略で一言……
では、とても言い表せません(スミマセン)。
読書中は喜怒哀楽の全ての感情が渦巻き、押し寄せ、
僕の魂みたいなモノが震えて止まりませんでした。

個人的なイデオロギーについては控えます。

ただ、日本を愛することが出来ない方にこそ
一度目を通して欲しいな、と思いました。
聡明なあなた方なら、反対意見にも耳を傾ける
(目を通す)理性はありますよね?
その後、論点をずらさず、静かに語り合いましょう。
周囲へのアピールも、僕達を恫喝する大きな声も
必要ありません。

話を戻して、もう少しだけ紹介の続きを。
本書は古代から現代までの日本を僅か500ページで記しています。
なので個々の出来事・事件は深堀されておらず、
あくまでも通史として読まれるのが吉。
とは言え、折々に挟まれるコラムには著者の顔がしっかりと見えたし、
あまり知られていない、しかし大変興味深い話が多数ありました。
例えば「義和団の乱」における柴五郎さんのご活躍に、
この事実を知りえただけでも本書の元がとれた気がします。

正直、著者の顔が見えすぎて(やや公平に欠けて)
素直に賛同できない話もあります(およそ5%)。
しかし、その殆どは大変貴重な情報だし御意見です。
好悪を問わず、これからの日本を考える時に、
決して忘れてはならない視点・観点だと思います。

また作中、日本人の特徴として誠実、善良、勤勉
が挙げられていました。僕も全くそう思います。
その上で本書を読み進むにつれ

「正直者が馬鹿を見る」とか
「悪貨は良貨を駆逐する」とか。

そんな言葉が悔しさや怒りと共に浮かんでしまいました。
日本人は誠実で善良ではあるけれど、
それが許されたのは鎖国にあった江戸時代までの事。
隣人も善良だと考えたのは危機管理に問題があったと
(今となっては)言わざるを得ません。
それでも僕は

「恨」には囚われません。

僕は多くの戦争や災害、その苛烈な悲しみや痛手を乗り越え、
何度でも立ち直った誇り高き父や母の息子です。
僕の微力は、残された命は、日本の次の世代のために使いたい。
それが今日の日本を命がけで残してくれた父や母に出来る
唯一の恩返しだと思います。

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島本理生『あなたの愛人の名前は』読了

二人の心をそれぞれの視点から描いた一対の作品。
すれ違う大人の心情を繊細に描く全6篇の作品集。
内容(「BOOK」データベースより)

罰なんてない。

本書は男女の間に芽生えた感情を描く6つの短編集。
相手を想うが故に閉じこもってしまう自分の世界。
そんな様子が切なく描かれています。
佳作。

夫がありながら性的治療院に通う妻
婚約者がありながら別な男に惹かれる女
想いを知りながら曖昧に逃げる男

「大人の恋愛」がテーマではありますが、
その多くはアンモラル(あるいはインモラル)なお話です。
なので当初は素直に感心するコトができなかったのですが、
読み進むうちに彼等の芯根みたいなモノが胸を打ち始めます。

たとえば良識には反しても芽生えてしまう感情って
誰にだってありますよね?
また破滅を知っていながら止められない衝動だってきっとある。
でも彼等は最後まで行き付く所を相手には求めず、
己の内側に(きっと深いトコロに)閉じ込めてしまいました。
それは世間体と言った綺麗事も当然あるけれど、
それ以上に相手のコトを考えてしまうから……と僕は感じました。

男女のコトは当人同士にしか判らないし、
ましてや大の大人のするコトです。
語弊を恐れずに言えばそれが「恋愛」かどうかなんて関係なくて、
当人同士が良ければそれで良いと思います。
ただ「あなたは知らない」の中で主人公・瞳が
自分の犯した不道徳に対する罰として

誰にも寂しいと言えないこと(本文より)

とあったのですが、
僕はいいようもない寂しさを感じたんですよね。
「恋愛」かどうかは判らないけれど、
二人が居てはじめて男女になるのです。
相手に「寂しい」と言えないなんて、
二人でいる意味がないような気がします。

蛇足で猫好きとして「蛇猫奇譚」の一編をご紹介。
そこには猫のチータ君からみたご主人・ハルちゃんと
その夫が姿が描かれています。
正直、テーマが重くて辛い描写もあるのですが、
チータ君の愛らしさがそれを和らげてくれました。

猫(チータ君)は人間なんかより、
ずっと人間の心を読めます。
だからハルちゃんには一言だけアドバイス。

アナタの愛は届いているし、これからも必ず届きます。

心配は要りません。
なんてたってチータ君の保証付きです。

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桜木紫乃『光まで5分』読了

北海道から流れ流れて沖縄にやってきたツキヨは、
那覇の路地裏で身体を売っている。
客に教えてもらったもぐりの歯医者を訪ねたツキヨは、
元歯科医の万次郎、同居人のヒロキと出会った。
内容(出版社内容紹介より)

噛みあわせ。

本書はどん詰りまで流れついた女の物語。
舞台が著者の代名詞・北海道からは正反対の沖縄ですが、
その筆に溢れる情感は流石の『桜木紫乃』です。

死んだコトになっている歯科医
青い目をした看取りの天使
そして
流れてゆくしかない女

物語に特段の出来事はありません。
女や男が流される、もしくは留まる様子が描かれるだけ。
強いてあげれば猫のランコさんの死と、
とある主要人物の生死が不明にはなる事件?があるけれど、
それにしたって誰にも影響は与えないんですよね。
結局、

人と人は、噛みあわない。
噛みあわないから、通わない。
通わないから、痛まない。

そんな様子を歯と歯の「噛みあわせ」で
顕していたと思います。

ただ痛まないと言ったって、痕みたいなモノは残ります。
それが違和感にもなれば、存在感にもなる。
時には喪失感となって主張してくることだってあるでしょう。
前述で彼等は「痛まない」としましたが、
光をもとめるツキヨの姿に、知覚できない痛みだってきっとある。
そうも感じました。

因みに本作で「光」とは痛みから(現実から)
目を背けるコトとして象徴されていたと思います。
またそのゲートウェイとして大麻があったのだけれど、
僕は(大きな声では言えないけれど)
同情してしまう部分が少なからずありました。
勿論、大麻は非合法だから論外だし、
そもそも僕はアルコール依存症だから偉そうなことは言えません。
けれど痛みから目をそらすコト自体は
許されても良いのではないでしょうか。
例えば自覚的にせよ、無自覚にせよ、
生きているのが辛い時って、誰にだってありますよね。
そんな時に実際の死を選んでしまうくらいなら、
臨死でも酩酊でも生きているコトを忘れてしまう方がずっと良い。
僕を除けば全ての方に対してそう思います。

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島本理生『ファーストラヴ』読了

夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた
女子大生・聖山環菜が逮捕された。
彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、
あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
臨床心理士の真壁由紀は、
この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、
環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?
「家族」という名の迷宮を描く長編小説。
内容(出版社内容紹介より抜粋)

双方向が必須。

本書は第159回(平成30年度上半期) 直木賞受賞作。
親子や恋人間で交わされる愛を触媒とした
ある種のマインドコントロール。
その意外な身近さに寒気を覚えます。

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
女子大生による父親殺しというショッキングな事件を中心に、
探偵役である臨床心理士・真壁由紀のトラウマにも迫る。
序盤から中盤にかけての(複数の)心理ミステリィには
緊張感がありました。ただ後半からラストに掛けては
やや雑な(一貫性と集中に欠けた)印象です。
環菜ちゃん、ちょっと人が変わりすぎたかも?

本書のテーマの一つにマインドコントロールがあると思います。
作中のそれは格別に意識的なものではなかったけれど、
弱いとされる女性や、実際に弱い子供に対して絶大の、
しかし悲劇的な効果を発揮してしまいました。
それはとても深刻で対処しなくてはならない問題だけれど、
その一方で僕は恋愛も友情もごく普通に
ある種のマインドコントロールでもあると感じてしまいました。

好きな人の意見に、少なからず影響されてしまう。

それって僕には普通のことだから。
なので本書が提示したマインドコントロールに対し、
僕はその悲劇性よりも、かなり身近にもあると言う点にこそ
怖さを覚えてしまいました。
当然、僕が被験者になる場合に限らず、
無意識のうちに施験者になる場合だって絶対にあります。
またその結果が吉とでるか凶とでるかだって紙一重ですよね。
それを肝に銘じておかなければ。

また作中、マインドコントロールの対義語?として
「愛情」が挙げられていたと思います。
で、由紀はその「愛情」をして

尊重と尊敬と信頼だと思っている(本文より)

とありましたが、僕も同感です。
結局、「愛情」って双方向で初めて成立するんですよね。
一方的な「愛情」は多くの場合、歪んでしまう。
ちょっと悲しい気もするけれど、
場合によっては「諦め」も必要ではないでしょうか。

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赤松利市『らんちう』読了

「犯人はここにいる全員です」――
リゾート旅館の総支配人が惨殺され、従業員6人が自首した。
だが、彼らの供述には「あやふやな殺意」しかなく、
なぜ被害者が殺されたのかわからない。
経営再建を担うキモデブ総支配人、完全違法な長時間労働、
自己啓発セミナー、従業員が慕う妖艶な美人女将……
容疑者達の供述からは予想外の事実が浮かび上がってきた。
第一回大藪春彦新人賞を受賞した奇才が放つ衝撃の犯罪小説!
内容(出版社内容紹介より)

貧困と自己責任。

本書はリゾート旅館で起きた殺人事件を中心に、
「貧困」の実態をあぶりだした一冊。
シリアスな題材ではありますが、
その切り込みは存外に浅く、軽く。
あくまでもエンターテイメントとして楽しめます。

殺されたキモデブ総支配人
従業員のアイドル・美人女将
貧困から抜け出せない従業員たち
そして
自己責任を説く自己啓発セミナー

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
ただ良いも悪いも含めて、深刻ではないんですよね。
当初はルサンチマンの逆襲?と大きなテーマを予感したものの、
いつのまにか洗脳と言った小さなテーマに納まってしまう。
前作の『』と同じくショッキングな描写もあるけれど、
割りと淡白に終わり、アッサリと進んでしまいました。
なので漫画を読んでいるような気楽さと、
ある種の安心感を覚えてしまいます。
この点が物足りないと感じる方も少なくないと思うけれど、
キャッチーな方向を目指したのだと思います。

因みに物語は全て登場人物達の独白で構成されています。
加えてショッキングな内容と
その導入部に比べてオチが弱いところ。
さらには適度な軽さと絶妙なエンタメ具合等、
僕は湊かなえさんの作品を思い浮かべてしまいました。
もう少し言えば本作は『湊かなえ』を30%薄めた印象です。

蛇足で貧困について。
それは本書のメインテーマの一つであり、
事件の背景として多視点から論じられています。
中でも資本家階級から論じた「自己責任」の記述には、
強く印象に残りました。

貧困について、個人的な意見は控えます。

ただ資本家階級の論理を100%肯定はしないけれど、
僕らの社会には全ての人に自由があるコト。
それを殆ど唯一の理由として、僕は支持しています。
本書の従業員たちと同じく、
僕も「相対的貧困」の一人だけれど、

頑張る自由も、怠ける自由も
食べる自由も、飢える自由も

全て「自己責任」において選択可能なんですよね。
何から何まで平等なモノは一つもないけれど、
この社会では誰にだって(僕にだって)自由があるし、
どんな可能性だって0ではありません。

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プロフィール

yuki

Author:yuki
離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
ロックと読書好き。でも酒と煙草をやらないストレート・エッジです。

娘達
長女:える(雉猫17歳) 泣き虫で臆病。温厚だけど父ちゃんには我儘な女王様。妹がちょっぴり苦手。職業:父ちゃんの監視。

次女:ふう(白黒4歳) 暴れん坊で食いしん坊。皆が食べているものは私も食べる。お姉ちゃんともっと遊びたい。職業:父ちゃんの邪魔。
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タラレバ娘(116)
自転車(34)
縦結びの人(18)

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