米澤穂信『さよなら妖精 新装版』読了

雨宿りをする彼女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。初期の大きな、そして力強い一歩となった、鮮やかなボーイ・ミーツ・ガール・ミステリをふたたび。書き下ろし短編「花冠の日」巻末収録。
内容(「BOOK」データベースより)

憎しみの建前。

本書は日本の高校生達と異国の少女・マーヤを描いた長編ミステリィ。
現実にあったユーゴスラビアの解体を題材に、
青春時代の出会いと別れのが描かれていました。

内容はバッサリ略で一言、ちょっと重いなぁ。
ビターは『米澤穂信』の特徴の一つだと思うのだけれど、
本作は僕には些か過剰に感じてしまいました。

とは言え、読書は集中することが出来たし、
その意味では非常に楽しめたコトもまた事実。
個人的にユーゴスラビアには関心があったので、
意図して単純化されたかの地の問題点には、
少なからず理解の助けとなりました。

因みに著者の他作品と比べても、
中二病とご都合主義が色濃く感じました。
ただ、そんなのは青春モノのある意味で欠かせない一面ですよね。
個人的にはココに引っかかりは覚えなかったし、
むしろ『米澤穂信』は流石に読ませるな、って感心しました。

以上、本書は青春モノ……と言うほど甘酸っぱくはないし、
日常系……と言うには明らかに重過ぎる。
しかし『米澤穂信』ブランドを貶めるコトはなく、
むしろ高めた一冊だと感じます。
中二病が苦手なかた以外には、どなた様にもお勧めです。

蛇足で憎しみの建前について。
作中、マーヤの述懐に

人間は、殺されたお父さんのことは忘れても、
奪われたお金のことは忘れません(本文より)

とありました。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
この発言はマーヤの、ひいてはユーゴスラビアの人たちの憎しみの建前。
ある意味で「落としどころ」だったのかな?って感じました。

外様で無知な僕がユーゴスラビアを語る愚は控えます。
ただ

父を、肉親を殺した仇でも、その血の入った我が子は憎めない。

そんな愛の光と影をたくみに利用した悪魔の所業、
僕の知る限りの「民族浄化(*1)」を想像してしまったんですよね。
きっとマーヤたちは「憎しみ」に愛を掲げるコトが出来ず、
代わりにお金を題目にするしかない(トコロに追い込まれている)。
そんな彼等の心のありようを想像し、
僕は本作の重さがいっそう耐え難くなりました。

*1)
支配者民族の血を混ぜ、被支配者民族の血と誇りを希薄化する所業。
支配者民族は被支配者民族の女性に性交を強要し、望まぬ出産を強制した。
副産物として、敵(仇)の民族の血が入ってはいても、わが子は憎めない(殺せない)
→支配者民族の血が消えにくくなり、被支配者民族の血は薄くなる。
そんな愛の弱点をも利用した悪魔の所業です。


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冷蔵庫は大丈夫です

コチラでカーテンから下りられない、と書きましたが
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冷蔵庫なら下りられるようになりました。
昔は泣いて父ちゃんに助けをもとめていたクセに……(コチラ)。
成長は嬉しい?のだけれど、ちょっとだけ寂しい。

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谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』読了

一匹の猫を中心に、猫を溺愛している愚昧な男、猫に嫉妬し、追い出そうとする女、男への未練から猫を引取って男の心をつなぎとめようとする女の、三者三様の痴態を描く。人間の心に宿る“隷属”への希求を反時代的なヴィジョンとして語り続けた著者が、この作品では、その“隷属”が拒否され、人間が猫のために破滅してゆく姿をのびのびと捉え、ほとんど諷刺画に仕立て上げている。
内容(出版社内容紹介より)

隷属すること。

本書は谷崎潤一郎の長編小説。
猫を中心とした男一人と女二人の三角関係が描かれていました。

うだつの上がらない庄造
前妻を追い出した福子
庄造に未練を残す品子
そして
庄造が溺愛する雌猫のリリー

内容はバッサリ略で一言、面白かったです。
それは猫を前にして素顔をさらけ出す人間達に趣向があったから。
中でも自分でも知らなかった己の資質を発見した品子に、
強く共感みたいなモノを覚えたんですよね。
それはリリーを譲り受けて発見した資質であり、
きっとそれは母性だったと思います。

本書のテーマには『隷属』があったと思います。
例えば夫に仕える妻のそれであったり、
母に仕える息子のそれでもある。
もっと言えば、お金への隷属もありました。
きっとこれらを深掘りするべき作品だと思うのですが、
僕は品子の母性にこそ、温かな隷属を感じてしまいました。

『隷属』って、ほとんど負の意味しか持たない言葉だと思います。

けれど自分を捨て、捧げて、隷属してはじめて得られる
感覚みたいなモノもあるんじゃないかな?
って、思ってしまったんすよね。僕の場合は父性になるけれど、
個人主義的な傾向の強い僕にも、こんな感情・感覚、
ある意味で父性みたいなモノがあると言うこと。
猫を飼うまではほとんど知りませんでした。

以上、本作は本来なら人間の三角関係を第一とする作品でしょう。
けれど猫好きなら、過去に現在に猫に隷属されている方なら、
もう少し別の発見もある作品かも知れません。
猫好きの方には一層のお勧めです。

蛇足でリリーの水車(?)運動について。
それはリリーが庄造の勤め先でみせたお遊びの一つなのですが……。
本書にあって谷崎潤一郎はよくよく猫を観察していると感じます。
それは甘える仕草だったり、つれない態度だったり、
はたまたフンシの匂いだったり(笑)
きっと著者も猫を飼った経験があると想像するのですが、
この水車運動だけは、ちょっと疑問を感じてしまいました。

猫タンはカーテンを降りられないと思います。

僕は今でも(しかも割としょっちゅう)
ふう助さんを救出していますよ?(笑)

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横向きで寝ていると

お姉ちゃんは腰に乗り、
妹さんはお腹の前。
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父ちゃん、動けず。

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いつもだいたいこんな感じ。

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桜木紫乃『家族じまい』読了

認知症の母と、齢を重ねても横暴な父。両親の老いに姉妹は戸惑い、それぞれ夫との仲も揺れて…。別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。
内容(「BOOK」データベースより)

家族だって他人。

本書は家族と向き合う女性たちを描いた連作短編集。
家族と言う共同体にあって、
決して共有されるコトの無い個人の事情や感情。
その様子に胸が苦しくなりました。
佳作。

内容はバッサリ略で一言、しんどかったです。
それは日ごろ目を背けガチだけれど、決して揺るがない事実。
家族だって他人だと言うコト。
それを赤裸々に突きつけられていたからです。

『桜木紫乃』は僕が新作を欠かさない唯一の女性作家です。
作品の多くに「絶望」や「諦念」が扱われるけれど、
そこに粘着はされない。語弊を怖れずに言えば女性作家らしくない
(むしろ男よりも男らしい)作風が好きなんですよね。
本書もそれから特段に外れてはいないと思うのだけれど、
主人公達と同世代(周囲に親の介護の話が多くなった)僕には
リアル以上に迫るモノがありました。

ここからは一言感想を。

『智代』
啓介のハゲから抜けてしまったモノ。
その中には家族や智代との絆もあった気がします。

『陽紅』
誰にだって親から影響はあると思います。
またその殆どは「悪(影響)」だと思うのけれど、
それはそれで仕方が無いし、ある意味で当然ではないでしょうか。

『乃理』
「何ひとつ間違っていないこと」がきついとありましたが、
全くの同感です(なんせ僕も乃理と同じアルコール依存症だし)
けれど、それを誰かの(何かの)せいにするのは別の話でしょう。

『紀和』
離れない老夫婦と、離れる親娘。
前者には絶望を、後者には希望を感じました。

『登美子』
登美子もサトミも忘れてよいと思います。
楽しいことだけ。ただそれだけで。

以上、本書には(心理的に)家族を仕舞う様子がありました。
前述の通り、僕(の年齢)にはリアル以上に迫るモノがあり、
かなりしんどい読書になったのだけれど、
一方で僕の意見は揺るがなかったんですよね。
それは人はどこまで行っても独りだと言うコト。
血を分けた親子・姉妹だろうが、
愛し合って結ばれたはずのパートナであろうが、
結局は他人だと言うコト。
若い頃はそれが哀しかったし、悔しかったのだけれど、
今ではそれが「救い」でもあるように感じるコトが出来ます。

無理に一緒にいる必要はありません。

嫌な思いをするのくらいなら、
家族だろうがなんだろうが離れた方が良いと思います。
結局、人は誰もが独りなのだから。

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今夏もガス使用量が0になりました(8年連続)

村上春樹さんの何かのエッセイ(タイトル失念)から。
This land is your land で有名なアメリカのフォーク歌手ウディ・ガスリーは
一年を通して(つまり真冬でも)シャワーは冷水だったそうです。
曰く、温水を使うのは男らしくないからだとか。
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僕も夏だけはウディ・ガスリー。

2019年・2度目
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年

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おいかけっこのその後

父ちゃんとおいかけっこで散々遊んだ後。
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休憩しているのだけれど、まだ興奮がおさまらないのか

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この目ぢからです(笑)

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村上春樹『村上T -僕の愛したTシャツたち-』読了

つい集まってしまったTシャツたち。『ポパイ』連載の人気エッセイが一冊になりました!村上春樹の段ボール箱で積み祝がった膨大なコレクションから、Tシャツをめぐる18篇のエピソードと108枚のお気に入りTを収録。Tシャツにまつわるインタビューも。
内容(「BOOK」データベースより)

目立ちたくはない。

本書は『村上春樹』のTシャツ・コレクションとそのエッセイ集。
著者がごく自然にTシャツに親しんでいる様子が目に浮かびました。

ノベルティTシャツ
マラソン完走Tシャツ
ビール関係Tシャツ etcetc.

内容はバッサリ略で一言、非常に軽く楽しめました。
初出が雑誌『ポパイ』だし、写真が半分を占めていますからね。
作中に多く登場する「サーフィン」よろしく、
軽やかに、爽やかに、深刻と対極の読書となりました。

また大雑把な印象だけれど、
著者はTシャツを(非常に良い意味で)消耗品と考えている様子。
なので紹介された中には、高価なブランドのそれは一枚も無く、
(好ましい)チープさで、(愛らしく)くたびれていて、
(気の置けない)親しみのある Tシャツばかりでした。
僕と著者では経済的な立ち位置は全く正反対だけれど、
Tシャツに対するこんな姿勢には共感を覚えてしまいました。

ただ、僕のコレクション?と比べれば長袖の割合が少ないのかな?
確認したところ、T45,T73,T106(これは七分袖)の3つしかありません。
これはきっと世代と言うよりも、経験した流行の方が大きいと推測。
きっとロックの、バンドの文化で育った僕等世代なら、
今でも長袖Tシャツに親しんでいる方は多いはず。
勿論、僕もその一人。夏を除けば、ほとんど一年中、
長袖Tシャツを愛用しています(若い頃のホンの一時期は
真夏でも長袖Tシャツでした。はっきり言って馬鹿ですね)

因みに著者の膨大?なコレクションに関わらず、
Tシャツには「着る・着ない」の明確な格差?があるそうです。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
僕も非常に共感してしまったんですよね。
Tシャツはファッションだしセルフ・アサーションだけれど、
目立ちたくはありません(笑)

蛇足でTシャツが好きで集めているハルキストについて。
個人的な話だし、また相手の個人情報にも触れるので簡単に。
それは僕が本書のタイトルを見ただけで、
とある人物の姿が頭に浮かんだコト。
そのとき(僕の頭の中で)彼女の着ていたのは、
とあるバンドの着古して首がヨレヨレのTシャツだったコト。
彼女の脱力した笑顔が、存外に鮮明に浮かびました。

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すごい格好で寝ています

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なんと!?これで熟睡してるのです。

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でも、ちょっと心配になっちゃう。

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片岡義男『洋食屋から歩いて5分』読了

街を歩き、街で食べる。美味しい「食」のエッセイ。
内容(「BOOK」データベースより)

スタイリッシュな東海林さだお。

本書は『片岡義男』の「食」にまつわるエッセイ集。
著者にとっての「食」が、漏らさず記憶と結びついている様子に
共感を覚えました。

内容はバッサリ略で一言、意外と良かったです。
正直、僕は著者にほとんど関心はなく、
むしろ「片岡義男??角川映画の??」ってな世代のオッサン。
勿論、向こうも僕みたいなムサイ男は眼中にないと思うのだけれど、
その程度の不親和性みたいなモノは予感していたんですよね。
けれど、いくつかはハッキリと良かったです。
例えば、人は育ちの良し悪しに関係なく(当然僕は「悪し」^^)、
「食」が記憶に強く強く結びつくと言うコト。
さらにはその人の人格を、さらには人生を造る重要な要素であること。
そこには著者も僕も変わりが無いと知りました。

ここからは特に印象に残った四つについて一言感想を。

『彼女と別れて銭湯のあと餃子』
タイトルそのままの内容です。
でもきっと誰もが一度は似たような経験をしているんじゃないかな?
勿論、僕にもあります。
しかも哀しいかなそれは一度ではないのだけれど、
ここで一つを挙げるとしたらそれは「しらす丼」です。

『いきつけの喫茶店について』
叙述トリックと言うか、アンジャッシュと言うか……。
きっと著者があの時に飲んでいたコーヒーと同じく、
ほろ苦い思い出なんだと思います。
でも、ほろ苦いからこそ良いんじゃないのかな?
歳月と言う砂糖が加わって、
思い出は今が一番美味しいんだと思います。

『料理本の思想』
書評とはかくあるべし。
「食」とはほとんど関係ないのだけれど、
ここにある三つの書評にはほとほと感心しました。
僕は料理が苦手だけれど、これらの本さえ読むことが出来たら……と
本気で思えてしまいました。

『定刻に五分遅れた』
作家・吉行淳之介との対談に、著者が五分ほど遅刻した時のお話です。
そこで格下の著者に待たされた吉行淳之介は、
たった一言「定刻でしょう」と発したのですが……。
僕はこの一言に何重もの意味を込めた(であろう)発信者の知性と、
それを洞察した受信者に力量に、等分で唸ってしまいました。
それにしても会話には双方同程度の鋭敏さが必須ですよね。
けれど、相手の次元がここまで高いと(こちらも要求されると)、
愚鈍なだけの僕にはちょっと辛いなぁ(笑)

以上、本書は乱暴にまとめれば「スタイリッシュな東海林さだお」。
もう少し言えば後半になるに従って「クドく」なり、
ある意味で「オヤジ臭く」なるのだけれど、
それでもショージ君よりはインテリ臭いのは間違いありません(笑)
同じコーヒーブレイクのお供でも、
本書は自宅よりスターバックスで楽しまれる方が似合うと思います。

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プロフィール

yuki

Author:yuki
離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
ロックと読書好き。でも酒と煙草をやらないストレート・エッジです。

娘達
長女:える(雉猫享年23) 臆病で泣き虫。けれど誰よりも強くて優しい子。僕の宝物。職業:これからもずっと父ちゃんの監視。

次女:ふう(白黒9歳) 暴れん坊で食いしん坊。皆が食べているものは私も食べる。いまもお姉ちゃんを探しちゃう。職業:父ちゃんの邪魔。
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