平野啓一郎『ある男』読了

彼女の夫は「大祐」ではなかった。
夫であったはずの男は、まったく違う人物であった…。
平成の終わりに世に問う、衝撃の長編小説。
内容(「BOOK」データベースより)

何度も、何度でも。

本書は戸籍の交換(身許のロンダリング)を題材に、
アイデンティティの脆さ、危うさを描いた作品。
個人に内包する(すべき)問題を扱うだけに、
好悪が分かれるかも作品かも知れません。

死別した夫が別人と知った妻
謎の人物を探す在日三世の弁護士
そして
死刑囚の息子

テーマは意外と多岐に渡ります。
個人のアイデンティティ、在日やヘイト問題、死刑制度、
愛における過去と未来、他人の人生を生きることetcetc.
そのどれもが難しい問題だし、
例えば国民単位では殆ど統一見解など望めない題材ばかり。
それでも幾つかの主張には妙味がありました。
たとえば

自分の苦悩をただ自分だけでは処理できないだろう?
誰か、心情を仮託する他人を求めている(本文より)

と、小説を楽しむ理由もその一つ。
人生を他人や架空のそれと置き換える理由に、
読書好きとして思わず膝を打ちました。

しかし全体的には欲張りに集めすぎた題材を
ハッキリともてあましており、散漫で緩慢な印象です。
これは個人的な意見になりますが、
エンタメならもっとミステリィ寄りに、
文学ならテーマをどれか一つに絞った方が
良かったのではないでしょうか。
(僕は愛と愛した人の過去について興味がありました)

最後に。
作中、名古屋へ向かう新幹線の中で、

愛した人が実は赤の他人だった場合、
二人の愛はどうなる?

と問いかけた城戸に対し、美涼はそんなに難しくない
と言った顔で自分の意見を口にします。
その詳細は本書をご確認していただくとして、
僕は彼女の考えに例えようもない熱いモノを感じました。

たぶん、彼女の言う愛は綺麗事でしょう。

けれど僕はそんな愛こそ求めて止まないんですよね。
僕にはそれが出来なかったし、
逆に相手からのは拒んでしまったのだけれど……。

僕は僕の人生を、誰かのそれと交換したいとは思いません。
しかし、あの時の僕をもう一度、
僕の人生をもう一度やり直すことが出来るのなら……。
そんな夢なら今でも見ます。

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離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
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