馳星周『少年と犬』読了

家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。犬を愛する人に贈る感涙作。
内容(「BOOK」データベースより)

死と孤独。

本書は無類の愛犬家『馳星周』による連作短編集。
人と犬の間で共振するナニかに、
いつしか僕まで震えてしまいました。
佳作。

日本を横断する気高き犬
旅の途中でめぐり合う人々の陰鬱な現実
そして
旅の終わりで生まれたもう一つの希望

内容はバッサリ略で一言、とても良かったです。
それは人と犬の美しい絆……と言った、
綺麗ごとだけでは終わらなかったから。
勿論、両者に間には友情に似たモノが結ばれるし、
お互いを温めていた。実際的にも助けあっていますしね。
そこは愛のある普通の愛犬モノと変わりません。
けれど本作の主人公の犬・多聞が旅の途中でめぐり合う人々には
それぞれの(悲惨な)事情があり、丸く収まるコトもない。
本作はどこまで行っても、現実的なんですよね。
それは多聞の行動原理でさえ例外ではなく、
彼はある意味で純粋だし、そして冷徹でした。
ラストはありがちだけれど、失われてもなお消えない絆に、
汚れた僕の何かが洗われる様な気がしました。

以下は個人的な意見なのだけれど、
『馳星周』のノワールやエッセイを 100 とすると、
山は 80(たまに 100)、犬は 60 が精々でしょう。
しかし本作はそのイメージを覆してくれたんですよね。
本作も『馳星周』の最高傑作ではないと(強く)思うのだけれど、
それでも犬の中ではダントツで一番です。
本作は『馳星周』のファンに限らず、どなた様にもお勧めです。

蛇足で直木賞について。
この駄文を書いているのは 2020/6/16 なのですが、
先日、本作が第163回直木賞(2020年上期)の候補になったと
ニュースがありました(選考会は来月15日)。
で、僕は以前、同じく直木賞候補となった『アンタッチャブル』で

これじゃあない(当ブログより)

としたのだけれど、本作について言うなら

順当

と考えます。
正直、著者の過去の直木賞候補7作(7作!)では真ん中以下ですが、
それでもこのクオリティなら受賞しないほうが不思議です。
なのでちょっと気が早いけれど、
多分著作を全て拝読している大ファン(僕)から一言だけ。

馳さん、第163回直木賞受賞をおめでとうございます!

※ 言霊(ことだま)って、実はちょっと信じています(笑)

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離婚と断酒。娘達(雉猫と白黒猫)と三人(?)の日々を綴ります。
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